・Zeroとsnの間





バタバタ、と小さな子どもの忙しない足音が聞こえてくる。此処で過ごす緩やかで時折賑やかな時間にもいくらかは慣れて来た。出来うることなら、そこに最愛の人たちも一緒に居られれば良かった。そう心の奥底で願う僕は、きっと浅はかで愚かなのだろう。
じーさん、と自分を呼ぶ少年の声は何かを期待しているようで、走ってきたからか息が上がっている。そんなに走らなくても僕はどこかへ行ったりしないのに。もう、何処へも行くことが出来ないのだから。



「どうしたんだい?」

「あ、あのな、じーさん、」



差し出されたのは、針金で造られた鳥の置物。よくあるその自由工作の類いに、一人の女性を重ねて、時が止まったかのように錯覚した。



――切嗣、ねえ、切嗣。





「……じーさん?」

「………え?……あぁ、凄く良くできてるね」



凄いな、と頭を撫でてやれば恥ずかしそうに、それでも嬉しそうに笑う彼は僕の最後の希望。何も救えなかったあの戦いで唯一救えた希望だった。
縁側に置かれた針金細工は、少しだけ歪で、決して綺麗な物とは言い難い。それでも目の前の子どもが一生懸命造型したと思えば、それは素晴らしい物に見える。ゆるやかに侵食していく時間と呪いは、こうも自分を鈍らせるのか。ただそれも悪くないと思っている自分がいるのも事実だ。

鳥をモチーフにしたのであろうその細工を見て、脳裏に浮かんだのは、冬がよく似合う聖女だった。



「……なんでもないよ」

「? 変なの」



僕にもまだ、君を想い、流せる涙があっただなんて。どんな謝罪の言葉を口にしても、僕にはもう彼女を抱き止める事も出来ない。
暖かくて慈愛に満ちた女性だった。
君に対する後悔や懺悔で常に叱責しているのに、思い出す君は、どんな時でも。彼女は何時だって僕に笑いかけてくれていた。
だから僕も、僕の最後の希望のこの子には何時だって笑っていてあげたいんだ。きっと、君がそうあったようにね、アイリ。





 




銀の鳥と聖女
(僕の大切な)