初めに抱いた感情はきっと、同調に等しい物だったのだろうか。今となってはそれさえも分からない。
自分がその器に選ばれた事さえも疑問に思っていた戦争で、何にも関心を感じえない自分にも一つだけ興味深い事があった。魔術師殺しと名を馳せた衛宮切嗣。彼は何を想い、何を信じ、その先に何を見たのかが一番興味深く、心を震わせた。

愉悦と王は云った。なるほど、それならば今こうして彼の屈辱と恐怖に揺れる表情を見せる彼を見下ろす自分はきっと今愉悦を感じているのだろう。



「良い眺めだな」



武装で固めた魔術師殺しは、その固められた物を剥いでしまえばあまりにも脆い。
地に這いながらも此方を睨みつける眼差しの強さは変わらないのに、時々垣間見える恐怖に怯えて揺らぐ瞳に、自然と自分の感情が高まっていく。 こんなにも心が震えたのは、きっと、決して長いとは言えない生涯でも数えるほどの事だろう。
どんなに声をかけても言葉は返って来ない。下手に言葉を洩らすよりも速く彼は、思案している。流石と言った所だろうか、彼はまだ希望を失ってはいない。だからこそ、その眼を絶望で覆ってみたいと思うのだ。



「少しだけ賭けをしないか」

「……」

「なに、ほんの余興に過ぎない」



黒衣の懐から出した一挺の銃、それは彼にとってはあまりに見慣れたモノであり、そして容易く絶望に落とす事が出来た。焦燥と動揺を隠せない彼は、先程より一層、心を震わせた。
自覚をしていなかった訳ではない、自分は人とは少しばかりズレていて、それが歪な事も理解していた。きっとあの王もその歪みに気付いていたのだろう、だから。



「簡単な運試しだ」



銃口を向け、馬乗りになる。
弾が入っていない事を知る由のない彼のベルトに手をかければ状況が漸く把握できたのか必死に抵抗を始めた。愛用の銃に犯されるなんて、なかなか興味深いと思うのだが、どうやらお気に召さなかったようだ。
でももう遅い。私は絶望と羞恥と屈辱と、色々な感情を剥き出しにした貴様が見たいのだよ、――衛宮切嗣。








歪みゆく世界で
(最上の、愉悦)