――もう、いい




ああ、もう最悪だ。
ここ最近は妹に絡まれたり仕事が立て込んだりしてシズちゃんとまともに話していないな、と思って久々に会えたと思えば機嫌が悪いのはいつもの事だけど、確実に地雷を踏んだ。
シズちゃんの感情のスイッチは人とズレている。ズレているからこそ厄介で、言うならば爆発してくれた方が俺としてはまだマシだ。閉じ籠って、抱え込まれる方が嫌だ。

のろのろと出ていくシズちゃんを追い掛けて池袋までやって来れば、不幸は続くもので、いつぞやに仕事でトラブルになったチンピラ達に囲まれている。なるほど、今日が厄日か。



「喧嘩は得意じゃないんだけどなぁ」

「そいつは好都合だな、糞餓鬼が」



別に得意じゃないだけで苦手ではない。伊達にシズちゃんと追いかけっこをしている訳じゃないんだ、こいつらはどうせ数だけで個々の力なんて恐れるに足らないんだから適当に撒いて逃げよう。能ある鷹は爪だけじゃなくて全貌をかくすものだから。脳内で逃走経路の確保と算段を済ませた時、人が飛んだ。
投げ飛ばされるなんて可愛らしいものじゃなく、飛んでいった。



「そのノミ蟲で遊んで良いのは俺だけだ」

「――っ、平和島……静雄?!」

「丁度俺も欲求不満だから、俺が相手してやるよ」



ニヤリと笑った池袋の赤信号、喧嘩人形に腰抜け共はあっさりと逃げ帰ってしまった。何だよ、本当に人数だけで良かったのは威勢だけか。それにしても聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど、シズちゃん。



「…………欲求不満だったの?」

「な……っ、ち、違う、あれは言葉の文だ! 欲求不満っていうのは、そういう意味じゃなくて!」

「シズちゃんにしては難しい言い回しを知ってるじゃん、で? そういう意味ってどういう意味かな?」

「――っ! ………………お前が、……悪いんだからな」



他の事ばっか見てるから、その言葉は聞こえるか聞こえないかのギリギリのラインだったけれど、確かに耳に入って。シズちゃんが俺と同じように、寂しいって思っていたのかなって、そう思えば嬉しくなる。嫉妬まではいかなくても、少なくとも拗ねてはいたんだから。
シズちゃんを引っ張ってキスをする。立っているとやっぱり、シズちゃんが若干屈むのが少しだけ気になるけど、今はそうじゃなくて。



「わっ、なにし、て」

「俺が欲求不満かも」



ごめんねシズちゃん。まぁ煽ったのはシズちゃんだし、こればかりは仕方ないよね、俺も男だし。これからは寂しがり屋のシズちゃんの事をちゃんと構ってあげるから心配しなくていいからね!









続きはベッドで!
(解消してあげるよ!)