ゆらゆらと、揺れる水のような。ここは暖かくて、寂しい。
何だかとても優しい夢を見ていたようで、目を覚ますとそれがただの夢だとわかり、少しだけ落胆する。誰か、暖かい手が髪を撫でているような、優しくてくすぐったいような、そんな不思議な浮遊感。Psychedelic dreams02は、何もかもが空っぽの空洞だと自負している。空洞とはいえ知識は一定以上持っていたし、スペックだって高い。それでも「俺」には、何もない。ただの空洞で、何もない。
マスターであって全ての元凶、折原臨也のパソコンにプログラムされたそれらは、きっとただの実験なのだろう、そう一番古くに生み出された彼は言っていた。容姿や性格が多少変わっても、お互いが巡り会うことがあるのかという。仮に俺たちの生まれてきた意味がその実験ならばフィールドをこんな狭い所に設定している時点で無意味じゃないか、そう問えば彼は赤い目を薄く歪めて笑った。



―結果が分かっている実験、ただの暇つぶしさ。



まるで神のようにね、そう笑った彼、六臂は臨也にそっくりだった。六臂本人は嫌がっているものの、彼は臨也によく似ている。いや、六臂だけでない、臨也をモデルにしたプログラムは、本人をモデルにしているからか、それぞれが臨也の一部を誇張したような、底意地が悪いくせにどこか人間味のある、そんな奴らだ。酷い目に合わされるのは分かっているから言葉にする事は一生ないだろうけれど。そもそも俺に一生という概念は当てはまらないだろうけど。
臨也は前に他の二人よりも俺は、オリジナルである静雄に似せすぎてしまったとぼやいた。そうは言っても臨也だって静雄とは違う、他人だ。似せたとはいえ所詮他人である臨也だ。いくらオリジナルの平和島静雄とは付き合いが長く因縁の間柄とはいえ他人の思考回路を把握する事なんて出来やしないのに。少なくともそう認識していた俺にとって、全てを知っているかの様に言い放った臨也は理解出来なかった。その時の俺は、短い返事をしながらも自分という存在に疑問を抱いていた。