・来神





陽が沈む時間が徐々に早くなり、服屋は秋物の服を並べている。この街は本当にたくさんの人間が居て、常に忙しない。
そんな都会の喧騒に負けじとあんなに喧しく騒いでいた蝉達は今となっては無惨にも転がり落ちている。何度か轢かれてしまったのか、それはぐしゃぐしゃで、形を辛うじて留めているだけで、まるで今の自分のようだ。
死んで踏み潰されて、ゴミのように。



「……つめたい」

「そりゃあね」



渡された缶ジュースを素直に受け取る事も、今こうして並んでいることも、普段を知る人間からしたら天変地異の前触れと驚くだろう。別に好きで一緒に居る訳じゃない、期末テストに賭けで負けた俺が、このクソ蟲の言うことを聞く羽目になっただけだ。どんな嫌がらせが来るかと思えば、"夏休みの間は休戦しよう"というシンプルなもので。曰く夏は暑いから追いかけ回されたくないらしいが、追いかけ回されるような事をしなければいいだけの話じゃねえのかよ。



「もうすぐ夏休み終わっちゃうね」

「ああ」

「シズちゃん宿題やった? あ、前日に纏めてやる馬鹿タイプ?」

「死にてえのか」

「あぁでも忘れたフリして提出から逃れるっていう手もあるよね」

「最低だなお前」



冷めた眼で見ればけらけらと笑い出す。こいつとこうやって何だかんだだらだらと過ごした夏休みは、恐らく普通の友達と過ごす夏休みだった。何をするわけでもなくてだらだらと時間を潰すだけだったけれど、それが苦にならない、自然な時間だった。

それでも時間は平等に過ぎていく。もう夏が終わる。そしたらまた俺達はいつものように戻るんだろうか。そう思えば、夏休みが終わらなければ良いのにと小さな子どものような事を思ってしまって、幼い頃とは違う理由を認めたくないから手の中の炭酸水を浴びるように飲む。喉の奥でパチパチと弾ける炭酸と一緒に溢れそうな気持ちを無視して。

あぁ、夏休み、終わっちまうなぁ。










あかいみはじけた
(残念に思うなんて)