手と足に枷を付けた僕は、まるで判決を待つ罪人のようだなぁ、どこか他人事のようにぼんやりと考えるくらい、この光景にも慣れた。ただいつもと違うのは、あのイリュージョンみたいな空間でもなくて、陽鞠を乗っ取った尊大な宇宙生命体様も居ないことだ。
両手を固定する枷のようなそれを見て改めて思う。これはやっぱり罰なんだ、だからどんなに頑張っても両親はまだ戻ってこないし、大切な妹も守れない。ただ家族揃って日々を暮らすこと、それだけのために努力していたハズだったのに。彼女の運命とか、悲しみとか、薄暗いものはどうだっていいけど、どうしてもどうにもならない。ある程度の関わりを持った彼女は、僕にとっての他人のカテゴライズから外れてしまったから。

ふと視線をずらせば、そこには僕と兄貴と陽鞠……いや、宇宙生命体の帽子が下らない言い争いをしていた。もう何が起きても怖くはない、一般的な常識しか持ち合わせて居なかった僕でも嫌でも慣れた。ただ一つあるとしたら陽鞠の顔で下品な事を言わないで欲しい。これだけはどうしても慣れない。




――だからあの妄想ストーカー女からさっさとピングドラムを奪ってこいと言ったではないか!

――だって、そんなことしたら可哀想だし、そもそも人の物を勝手に取るだなんて犯罪じゃないか

――甘い! そんなことだから、お前は




そんなことだから、僕は。

ぐらぐらと足場が崩れていくような錯覚と共に体がゆっくりと冷えていく、あぁ、そうだ、確か荻野目さんが撥ねられそうになって、彼女を突き飛ばして、僕は。顔をぐしゃぐしゃにして泣きながら僕の名前を呼ぶ荻野目さんは、真っ黒な女の子からは程遠くて、謝らなくちゃいけないのに、声が出ない。



「…――     」





次に目が覚めたのは白い部屋だった。目が溶けてしまうんじゃないかってくらいに泣きながら僕の名前を呼ぶ妹は、夢の中の尊大な宇宙生命体様ではなくて、いつもの可愛らしい妹だった。伯父さんに連絡してくるね、泣きはらした目を拭って小さな妹は走り出す。白くて狭い部屋に兄弟が取り残される。冠葉は何かに苛立っていて、どうしようもない不安が襲う。俺がいけないんだ、兄貴はきっと知ってる、ピングドラムがどうなったかを。



「ごめん、なさい」

「何でお前が謝るんだよ」

「僕が、全部……全部ダメにしたから」



全部ダメになった。ピングドラムは二つに別れて、片方は誰かが持っていって、そうだ、荻野目さんにも何て言えば良いのか分からない。会わせる顔もない。あぁ、だからこれは罰なのか、可哀想だ、とかそんな言い訳を盾に汚れ仕事を兄貴に押し付けて動かなかった、僕に相応しい。



「ふざけるな、お前が居なくなったら意味がないだろ」

「でも」

「家族みんなであの家で暮らすんだよ」



凛とした冠葉の声が部屋に響く。
またそうやって、兄貴は僕を甘やかすから、僕はその優しさに甘えてずるずると動けなくなっていくんだ。触れられても熱が伝わらないなんて事が、こんなにも切なくて苦しいなんて、知りたくもなかったのに。












罪と罰
(これは、僕だけの)