僕はいつも待っているだけだ。9年前も、今回も、大切で大切で離したくないのに、じっと嵐が過ぎ去るのを待つしか出来ないどこまでも無力で、非力だ。
何度か過った最悪を、やけにリアルに感じる。帽子はその得体の知れない力を失って、兄貴も、戻ってこない、なんて。全身から熱が緩やかに引いていくような、足元がぐらぐらと崩れるような感覚に泣き出したくなる。情けない、本当に。



「っ、」

「ごめん、滲みた?」

「いや、大丈夫。アレだ、名誉の負傷ってヤツだな」

「……名誉の」

「俺が帽子を追いかけて陽鞠を救ったからな」

「……うん」



俺が、を強調して、まるで舞台役者みたいにオーバーな言い回しをする兄貴に益々自分の情けなさを痛感する。兄貴は凄い。いつだって俺には出来ないことをしてしまうから。
今回も、別に荻野目萃果が悪い訳じゃない。誰だって彼女と同じリアクションを取ると思う。だからつまりこれは僕のミスだ。もっといいやり方があったのかもしれない、兄貴なら、もっと上手くやれたかもしれないのに。
彼女は人とはずれた愛を持っていても、普通の女の子なんだ。そう思うと少しだけホッとしたような、罪悪感が増したような、なんだかよくわからない感情がごちゃまぜになる。



「晶馬、お前はよくやったよ」

「……え?」

「まさか荻野目萃果が帽子を投げるだなんて普通予測しないだろう」

「……」

「そこはまぁ、この御兄様がカバーしてやった訳だし」



お前にしては上出来だ、とそう変わらない位置にある髪を撫でられる。小さな子供にするように、優しく。全部わかってると言わんばかりのその表情に、ごちゃまぜだった感情が騒ぎ出す。
反射的にそれを封じ込めるように思いっきりガーゼを傷口に押し当てれば断末魔のような叫びを上げる冠葉にざまあみろ、と笑ってやった。
くしゃりと頭を撫でた手が、記憶の中の懐かしくて暖かい大きな手に重なって見えたなんて、恥ずかしくて絶対に言えないけど、きっとこの"御兄様"には全部バレているんだろう、なんて。











ボロボロになったのは、
(悔しいけれど、きっと)