アラサーだよアラサー! 三十路ってヤツだよヤバイなー大人の階段駆け昇ってる、と自分の誕生日に爆笑していたのをみて率直に羨ましいと思った。俺が一年前に同じように歳を重ねたとき、同じように馬鹿笑いはしなかった。嬉しくない訳じゃない、生まれてきたことを色んな人から祝福されたのは嬉しかったのに、何故か虚無感が占拠した。分かっているんだけどな、そう項垂れながら言葉を吐き出した堺さんは何時もの気力はなく、弱々しい。世良を始めとした後輩たちが見たら二重の意味で泣き出すだろう、暑さは彼の虚勢までも奪ってしまったのかと暢気に考えた。



「堺さんは考えすぎなんだよ、多分」

「………るせぇな」



こんないい加減な呪縛を解いて、虚無感を燃やしてしまえばいいのに。ひとつの考えに囚われないだろうお前が俺は羨ましいんだ、そう言ってまた項垂れる堺さんにどうしようかと思考を巡らせてみる。
前向いているはずなのに、いつも何故か過去に縛り付けられたような錯覚に陥るのはきっと俺が、限界を知ってるから。だったらまた、一から進むしかないじゃないか。仮に見失って息も出来なくなっても、それはそれで、まぁ仕方ない。いっそ、全部消し去ってしまっても、そこに俺たちが居たことには代わりないんだから。
口にしなかった言葉の代わりに手に持っていたボトルを頭上に傾ける。この暑さでやられてるだけだよ、きっと、俺も貴方も。



「っ、冷てぇ! 石神てめぇ……っ」

「見つけられなくなったって、此処にいるってことは変わらないじゃん?」

「…………それはグラウンドの上か?」

「さぁね、どうだろ」



俺は何時だって見てるから、そう言ってけらけらと笑うと堺さんは優しく笑った。ああ、俺その顔好きだな、かなりレアだし。そういう風に後輩にも笑いかけてあげれば良いのになあ、でもその言葉は頭から浴びた水と一緒に流した。
今はもう少しだけ、独り占めしたいから。













クールダウン
(心は燃やして)