・もし湯沢がETUユース生で赤崎と同期だったら






また赤崎と黒田が喧嘩してる、よくやるなぁ、とその人は穏やかに笑っていた。彼奴らは似た者同士だから仕方ないな、と付け足して。そして周りも苦笑しながら何時もの事だと軽く受け流している光景を見ていると、ここは本当に暖かいんだと実感する。
他人同士が分かり合うだなんて不可能に等しい中で先輩にも平気で食って掛かる彼奴は、勘違いや妬みの都合の良い的だった。やれ天狗だとか、調子に乗ってるとか言われて。



「本当に馬鹿だな」

「あ?」



なんだよ、と訝しげに此方を睨み付ける。一つ下の臆病な後輩が見たら多分怯えるだろうな。主語がねえんだよお前の話は、と軽く頭を叩かれる。そうだなぁ、お前の基準から言えば俺は口数少ない方になるな。それでもまぁ分かってくれる人が居るからいいんだよ。これも言葉にはしないけど。
言いたいことは臆せず吐き出すお前を生意気だと評する人間はたくさん居るけれど、俺はその分お前が頑張ってきたのを知ってる。もう学生ではない、プロなんだ、並大抵の努力じゃ叶わない事の方が多い中でここまで来た。それが終わりか始まりか何て決まりきっているだろう。



「頑張れ、五輪代表」

「……おう?」



よくわかんねえけど、ありがと、と照れ臭そうに笑うこいつは昔から変わってない。先に進んでいくのが寂しいだなんて甘ったれた事を言うつもりはない。そこで待ってろなんて馬鹿なことを言うつもりもない。どんどん進んでけばいい、俺は絶対に追いついてやるから。それを言葉にするつもりは、最初からないけれど。










飲み込んで自分だけのもの
(決意も覚悟もひっくるめて)