昨日降った雨が嘘のように晴れた空から照り付ける太陽は眩しい。グラウンドはまだ昨日の余韻を残していてコンディションが悪いから練習を見学していると、隣にしゃがみこんだ男は僕を一瞥する。注意をするわけでもなく神様は意地悪だよなぁ、とぼやいた。あんなにボール追っかけるの好きなヤツから、それを奪うなんて、本当に意地悪だと。
それは自分を思い返しているのかい? 僕はそんな不粋な事を聞くような人間ではないから心の中で問いかけた。

そう、彼はまるで子犬のように走り回っていた。感情やコンディションに大きなムラがあって、極度の小心者ではあったけれど、ボールを追いかけている彼は楽しそうに走っていたから。



「………………昨日な、アイツが居たんだよ、グラウンドに」

「……へぇ?」

「最初人影見えてさー、不審者かと思ったら椿と持田で」



吃驚した、久しぶりにアイツが練習してるんじゃないかって思った自分に。へらりと笑う彼は痛みを我慢しているようだった。
僕もあれは悪い夢の一つで、またおどおどしながらもがむしゃらに走る彼をいつでも見れるんじゃないかって思っている。でも彼は居なくて、チームは機能して、何時も通りが始まる。それが彼が此処に居ないことをありありと見せつけられているようで、痛い。



「……さよならが言えないのは寂しいものだね、タッツミー」

「…………………うん、そうだね」



しゃがみこむ男は少し難しい顔をしている。鋭い彼は僕の言葉に含んだ意味に気付いたんだろう。いつか来る別れに怯えるのも悲しいけれど臆病で怖がりなあの犬はきっと、白い部屋で一人で突然の別れを受け入れたんだろう。
脳裏にはしっかりと焼き付いているのに、今も鮮明に思い出すことが出来るのに。君は、もう此処には居ないんだね。












君が居ないと落ち着かない
(いつか慣れてしまうんだろう)

title:伽藍