「バッキー、自分でしてごらん」

「…え?」



まるでグラウンドを走って来なと言うような軽さで王子はとんでもない事を言い出した。それが何をしろという事なのかくらい流石の俺にだってわかる。ここはグラウンドではなくてベッドの上で、俺と王子は所謂そういった関係だから。何言ってるんですか、と言外に王子を見れば逆にそれが当然の事のように微笑まれる。俺は多分、この笑顔に弱い。全部を赦してくれそうな、優しい笑顔だから。



「いつも僕がしているように」

「ひっ、あ、」



まだ萎えている自身を掴まれれば意識に反して期待に熱を持っている。耳許で言葉を囁かれればゾクゾクと歓喜に震える自分の身体が恨めしい。それもこれも目の前の王子のせいだというのに、彼は簡単に手を離してしまう。どう、しよう、昂った身体はそう簡単には鎮まらなくて、仕方なく手を伸ばす。その熱さに羞恥心が増して、あぁ、もう、情けない。泣きそうだ。



「良い子だね、バッキー」

「み、みないでくださ……っ」

「どうして? いつももっと恥ずかしい姿を見ているのに?」

「っ、」



何も言い返せない。確かに王子にはいつも恥ずかしい姿を見られてはいるけど、それとこれとは別じゃないだろうか。王子は一瞬考えた後にベッドサイドに無造作に置いてあった携帯を手にする。カチカチと弄る王子に冷や汗が垂れる。嫌な予感どころじゃ済まない、絶対に良くないことを考えている。



「な、にして」

「ん? 気にしなくていいよ」



気にするなと言われても気になる。
だって、さっきから携帯のレンズが此方を直視しているように感じるのだから。もしかしなくても、王子に限ってそんな事はしないだろうって思っていたのに、まさか、そんな。



「バッキーは見られると燃えるタイプみたいだから」

「……っ!や、めてくださ…」

「ほらバッキー、ちゃんと手動かさなきゃ」



いつまで経ってもイケないよ? そう笑う王子は本当に慈愛に満ちたような表情で、携帯を此方に向けてる人間と同じなのかと疑いたくなる程だ。どうかしてる。
それでもそんな彼に逆らえないし逆らおうとも微塵も思わない俺も、大概どうかしているんだろう。










貴方の笑顔に毒される
(手懐けられてしまった)