「黙ってればガキだよなぁ」



コイツらは、本当に。
自然と表情が緩む。額に貼っていた冷却シートを剥がすとすっかり熱は引いているみたいで、子どもの回復力には驚かされる。眠る持田を抱き締めるような、抱き締められているような、良く分からない体制のまま一緒に眠る椿の頬には涙の跡が残っている。サボった事については、まぁ、許してやるとしよう。そんな事をぼんやりと考えながら新しい冷却シートを貼ってやっていると、椿が身じろいだ。



「……ん……あれ…?監、督」

「うんそう、監督ですよ」

「え……っ!あっ!練習!」



ガタンっと大きな音を立てて立ち上がった椿は、直ぐに持田の存在を思い出したのかすぐに大人しくなる。そして俺の顔と窓の外を見て青ざめる。窓の外はまぁ、綺麗な濃紺に包まれているからだ。
慌てたり泣きそうになったりと忙しなく変化する様は、そこで眠ってるガキよりも全然子どもらしい。というよりは子犬みたいだ。ビクビクとビビる犬の頭をぽんぽんと撫でてやる。



「まぁ別に怒っちゃいないよ、こうして持田見ててくれたし………………って、椿」

「え?」



何があったかは知らないが散々泣いたからだろう、真っ赤になった目を更に赤くして椿は泣き出していた。わぁわぁと泣くわけではなくて、静かに、呼吸をするように涙を流していた。泣き言を口にすることはあっても泣いている所を見るのは初めてで、どうしようもないやるせなさに襲われる。



「あ……違うんです、持田さん、が、……持田さんだから」



椿自身も困惑しているからか言っている意味がまるで掴めない、けれどそれはつまり、こいつの代わりに泣いていて、今もそれは然りって事なんだろうか。分からないけれど、椿は、手が、暖かくて、と譫言のように繰り返した。
きっと持田さんは、それが当たり前だと思っていて、と椿はそれはもう小さな子どもみたいに泣きじゃくった。ああもう泣くな。あんまり泣いてそれがバレると俺が飼い主サマに怒られるんだよ。

なぁ、お前も起きてたらバカじゃないの椿くんって笑い飛ばすんだろうな。だけどお前の代わりに泣いてるヤツも居るって、それってすげえ愛されてるって事だから、いつか、いや、彼奴はきっともう気付いてるんだろうな。










いつか吐き出してくれるだろうか
(一緒に流れていけば良いのに)

title:伽藍