良く分からないガキを拾ってから何だかんだで二週間が経った。有里や後藤には誘拐犯扱いされるし、とりあえず預かるよ、と言えば有里には犬猫じゃないんだからダメに決まってるでしょ!と憤慨された。そりゃそうだ。正論過ぎて返す言葉が見つからないね。
3日もすれば自宅が恋しくなるだろう、そしたらこの家出少年も自分から家に帰りたいと申し出る。そう予想していたからこその決断だったのに、家出少年……持田くんは此処での生活にあっさりと馴染んでいった。

サッカーが好きと言ったのは嘘ではないようでうちの選手に混じってサッカーをしたいと言い出した。最初は戸惑っていた選手達も3日もすれば慣れて、練習の空き時間に相手したり、からかったりと何だかんだで随分仲良くなったみたいだ。
持田は中でも椿が気に入ったようだ。弄りやすいから子供には絶好の的だもんなぁ。ボールを持った持田は休憩している椿に椿くん、サッカーしよう、と笑う。椿は10も歳の離れたガキを何故か持田さんと呼んでいる。聞けば持田には学ぶことが多いから尊敬の意を込めているらしい。

しかしそろそろ親も心配すんじゃねえのかな、届け出とか出ているだろうし一度警察には行った方がいいのかもしれないなぁ。そんなことを考えているときに、それは起きた。





「なに、これ」



椿とサッカーをしていた時に持田が転んだと聞いた。背中を思いっきり打ったかもしれないんで出来れば診てもらった方がいいかもしれないです、と椿はしょげた犬のように言った。何度も持田にごめんね、と謝りながら。
対する持田は椿くんがなんであやまるの?サッカーしたいっていったのは俺だし、とけらけら笑っている。成る程コイツは大物になるんじゃねえかなと、その背中を見て、正しく驚愕した。白い小さな背中には、似つかわしくない赤と濃紺が撒き散らされていたのだから。



「サッカーしててこんな怪我になるの」

「…………」

「おい」



つい責めるような口調になってしまう。他人の家庭の事情に踏み込んではいけないだなんてそんなの分かりきっているのに、いざそれを目の当たりにすると、こうもざわつくものなんだろうか。持田はまだ背中を向けたままだ、ぎゅっとボールを持つ手に力が増した。それが酷く痛々しく見えて、やり場のない怒りが込み上げる。誰に対してだろう、出会って数週間の子供の、顔も何も知らない親に対してだろうか。



「達海さん、俺ね、サッカーすきなの」

「知ってるよ、そんなこと」

「だから今は毎日楽しいんだ」



心臓を握り潰されたような錯覚をした。この子どもが小さな身体で何を抱えてるかなんて想像もつかないけれど、俺からサッカーを取らないでね、と言わんばかりの持田の言葉は自分に重なる部分があったからだろうか、どうしようもないやるせなさが襲った。










15日目の憂鬱
(今はしあわせだよ)


title:伽藍