「持田はさぁ、いたくねえの?」

「は?」



少しだけ呂律が回らなくなっている達海さんの足元に転がる空き缶や空き瓶。そろそろ水に変えてやらないといけないかなぁ、と目の前の酔っ払いに負けないくらいに回らない頭でぼんやりと考える。酒の肴が試合のDVDなのが何とも色気もない。まぁあってもどうかと思うけれど。しかし自覚できるくらいには飲みすぎた、明日は二日酔いか。



「俺はね、いたかったんだ」

「そりゃそうだ、怪我だから」



引退するくらいの怪我だ、痛いどころの話ではないだろう。へらへらと読めない笑顔で止まらず缶を開けていく達海さんは決して酒が弱い方ではなかったと思うけれど明らかに飲み過ぎだ。
飲みすぎだよ、と缶を取り上げると持田のくせに後藤みたいな事言うなよー、と唇を尖らせる。完璧に酔っているからだろうか。普段は自分から怪我とか、そういった話なんてしないのに。何となくその剥き出しの傷には触れちゃいけないような気がして、冷静を装って言葉を吐く。それを聞いた達海さんは、今にも泣き出しそうな、でもいつもの悪戯を思い付いたように笑って俯いた。



「ちがうよ、いたかったのは」



ピッチの、うえに。
消えそうな声に、締め付けられるような痛みを錯覚した。ただそれが心臓ではなく、脚だったのに少しだけ自嘲する。あぁ、何でだろうなぁ。達海さんは俯いたまま黙りこくったと思ったら規則正しい呼吸音が聴こえる。片付けとかどうすんだよ、本当に。…………言い逃げかよ、ムカつくなぁ。



「じゃあ、俺は、……いたいよ」



軋んだのは脚だったのか、心だったのかは分からない。きっと両方だったから。











いたいよいたいよ
(ずっといたいよ)