・驚愕ネタバレ






ずるずると嫌々ながらに沈んでいるのではなくて今の俺は自分から潜っているのだ、この超常現象の塊へと。それが高校生活の三分の一という時間を費やしたからとか、そういう訳ではなくて。釈然としないが俺は、この5人で過ごす珍妙な時間が存外気に入っているからだろう。未だにルールが曖昧な盤面を睨みながらふと、そう思った。
朝比奈さんのお茶は何時だって渇いた心を潤す砂漠のオアシスのようだし、相変わらず座敷わらしのように鎮座して読書を続ける長門も然り、そして、我らが団長様もだ。



「吃驚したわ、あれだけなくした時には出てこなかったのに、簡単に出てくるんだもの」

「意外と何気ない時に見つかる物ですよね」



確かになくしたその時に必死になって探すより暫く経った後のテスト前の気分転換の掃除のような何気ない時に顔を出してくる。まるでそういった一連の流れにテンプレートがあるかのようにだ。そのスマイルマークのような髪留めは彼女がつけていたものと全く同じものだった。新入生、いや今となっては侵入生と言った方がいいか。



「そうだキョン、これあげるわ」

「はぁ?」

「あんたが着けるんじゃないわよ、妹にあげなさいよ。私はもうこういうのは卒業したし。要らないって言われたら捨ててもいいわ、どうせ見つからないと思っていたものだし」



現に忘れていたし、と渡されると少し戸惑う。小学校の時から着けていた宝物だと彼女は言っていた。ただそれをハルヒに伝えるのは少しだけ違う気がするし、だけど何だろうか腑に落ちない。



――そのうちあなたのところに巡ってくるかもしれませんね。



あの九曜とは違った意味で、制服から手と足と頭が生えたような。明らかに制服に着られている彼女を思い出して、少しだけ胸が締め付けられるような気持ちになった。彼女、いや、ヤスミは分かっていたんだろうか、分かっていたんだろうな。お前はお前で、ハルヒの一部だったんだから。
髪留めをじっと眺める、俺はきっと彼女を忘れたりはしないんだろうな。俺たちを助けてくれた、ハルヒであって、ハルヒでないヤスミの事を。



――あたしは、わたぁし



渡橋泰水、例えばお前が涼宮ハルヒの一部であったとしても、お前はお前だよ。短い付き合いだった後輩を思い、温くなった湯飲みに手を伸ばした。











世界中のどこを探したって君へのこの想いを表す言葉は見つからない
(端的に言えば、「ありがとう」)

title:伽藍