「椿くんはさー、ちゃんと身体大事にしなきゃダメだよ」

「……ウス」



生傷が絶えない職業だから、擦り傷や切り傷が多くなるのは仕方ない。ボールを追いかけるのは人間同士で、ぶつかり合ったり騙し合ったりするものだからね、と言っていたのは誰だったか。つまり傷はある意味日常的なものであって、だからこそ無頓着になってしまうものなんだろう。若いからって何時までもコンディション保てると思うなよ、と忠告していた先輩を思い出していると持田さんは俺の足に手をかけた。正確には、瘡蓋によって塞がっていた傷にだ。



「ちょ、何してんすか…っ!」

「瘡蓋って見ると剥がしたくなるなって」

「ひっ」

「あ、何かその声やらしい」



ピリリ、とした痛みが走ると瘡蓋は呆気なく剥がされ、傷口は薄く再生された皮膚によって辛うじて守られている状態だ。身体を大事にしろと言った人間と同じ人間の行動とは思えない。現在進行形で俺の身体を痛め付けてるじゃないですか、とは死んでも言えない辺りが自分のチキンさ故だけれど。



「う、あ」

「えーなに椿くん。さっきからエロい声出して痛いの気持ちいいの?」



耳元で囁かれると傷口に一気に熱が集中する。焼かれているんじゃないかと、錯覚するくらいに熱い。落とされるキスは酷く優しいのに、それが逆に乱暴に感じる。
このまま足折っちゃう?と笑顔で聞いてくる持田さんに必死に懇願する。そんな事はきっとしないだろうけれどそうではなくて、何でか持田さんが壊れそうな気がして。自分でもよく分からない引き寄せてキスをする。キスとは名ばかりの唇が触れるだけの拙いもので、きっと笑われてしまうだろう。恐る恐る目を開ければ、少し呆けた王様が、意図の読めない表情で笑う。



「生意気」



ぐりっと捩じ込まれた指に、とうとう薄い皮膚は役目を放棄した。生暖かい血が足を伝う。それは俺たちの代わりに泣いてるみたいだった。










流れた血液が涙の代わり
(本当に痛いのは、きっと)