世良がこの世の終わりかと言うくらいに慌てて飛び込んで来た。話によれば休憩中にホースの水で遊んでいたら椿に直撃。そこまではまぁ椿だし仕方ないなと思っていたら、椿が椿じゃなくなっていた、性別的な意味で。
何言ってんのか分かんない、と端的な感想を告げればとにかく見れば分かります!と引っ張られて連れて来られたロッカールームにはいつも以上に緊張した面持ちの椿がタオルにくるまっていた。



「んなバカな事あるんすか」

「椿ー、ちょっとこっち来い」



ビクビクと此方へ近付く椿は確かに一回り小さく見えるし全体的に柔らかい感じがする。ただそれは"女になった"という先入観から来た幻想である。ならばその幻想を取り払うには、これしかない。



「ーーーーーっ!!」

「あ、マジだった」



差し伸べた手の先には、柔らかい、男には確実にないものがついていた。あちゃー、これ下も確認しようかと思ったけど確実にそんなことしたらショックで倒れるんじゃねえの。既にもう泣きそうだし。
今にも泣き出しそうな椿はそのまま村越の後ろに逃げやがった。俯いてボソボソと喋る椿の声は此方には届かない。村越の表情がどんどん強張っていく。怒っているというよりは困惑したような、驚愕したような。どちらにしろ珍しい。



「何だって?」

「……お湯をかければ元に戻るらしい」

「………………は?」



そんな昔の漫画みたいな事があって堪るかと半信半疑どころか9割以上疑ったままシャワールームに放り込んだら、いつもの椿が出てきた。あまりの衝撃に全員何も言えずに固まる事しか出来なかった。いやいやどんなファンタジーなんだよ、パッカがメスだって言われる方がまだ現実味があるよ、これ。



「あー…………どうせなら犬になるとかなら面白かったのにな」

「…………すみません……」

「そういう問題じゃねえし何でお前も謝ってんだよ」



まぁ戸籍上男なんだし問題ないんじゃないかなぁ、そうぼんやりと呟けば既に椿はチームメイトに捕まってどの温度からが水でどの温度からがお湯なのか、だのぬるま湯かけたらどうなんだ? だの完全に実験というか遊ばれている。あれってセクハラに入るのかなぁ、そしたら俺もセクハラなんだけど。



「あれ? 何か騒がしいねタッツミー」



あーあ、一番厄介な飼い主の登場だ。
助けを求めるようにこっちを見る椿には悪いけどあのすかした王子がどんな反応を見せるのかとか色々と面白そうだから止めないでおこう。ごめんなー椿、心のこもらない謝罪を口にして欠伸する。さて、どうなるやら。










大人の都合上助けは呼べませんので自力で頑張ってください
(大人は時々残酷なんだよ)

title:伽藍