恋人の噛み癖と言えばキスマークとかそういった類いの物を連想しがちだけれど、これにはそんな可愛らしさの欠片も感じられない。飼い犬に噛まれた、そう言った方が相応しいだなんて溜め息も吐きたくなる。
「……また思いっきり噛んでくれたね」
色気も何もなく文字通り噛まれた痕。
犬とは確かに形容したけれどまさかこんな癖があっただなんて。不安げに此方を窺うように見詰める彼はいまるで叱られた犬だ。そんな彼が可愛くて、少しだけ意地悪をしたくなった。
「毎回毎回噛み痕残すなんて、バッキーは意外と独占欲が強いタイプなのかな?」
「いやっ、違います、いや違くないんですけど、その…痛いっすよね……すみません」
もうしませんから、と弁明する姿は犬というより小さな子供みたいだ。からかうための冗談だったのに、そんな風に反応されるとこっちが恥ずかしくなる。
「躾が足りないのかもね」
「え?」
「ちゃんとしたキスマーク、つけれるように教えてあげる」
にこり、と笑いかけると真っ赤になってあぁ、とかう、とか言葉にならない声を発するから首筋に吸い付けばぎゃあ、と叫ばれる。全く、色気が足りないよ? さっきまではあんなに可愛く啼いてたのに。
これが君の小さな独占欲なら、それはそれで嬉しいけれど、僕としてはもっと独占してほしいから。
何時までも根に持っててあげる
(歯形と内出血、それが独占欲)
title:伽藍
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