「それじゃ、俺のコートを汚い血で汚さないように頑張ってね、シズちゃん」

「そうだな、てめえのそのノミ蟲みてえな黒いコートは俺がてめえの血で染めてやるから安心しろクソが」



言うが早いか、すぐに避難とばかりに後ろへと下がる黒いコートの男を一瞥し、舌打ちをして走り抜ける。
轟音と共に砂埃が煙のように舞い上がり、硝煙が鼻孔を擽る。立ち込める匂いも、音も、嫌いだ。自分が全てを破壊する為だけに存在していると嫌でも思い知らされる。戦場が、戦が、俺には壊すことしか出来ないと、突きつけられているようだった。



――大丈夫、怖くなったら目を閉じて



怖くなんてない、飛んでくる銃弾にも慣れたし、人体の急所も一通り把握はしている。戦いの中で不安要素は何一つもない。何も怖くなんてないのに、どうしようもなく全てが怖くなる。こんなのもう嫌だ。怖い、怖い。と、駄々を捏ねる子供のように、全てを拒絶してしまいたくなる。
それはふとした瞬間。今俺は、ちゃんと加減を出来ているのだろうか。また俺は、この目の前に立ちはだかる兵士を、この場に在る全て壊してしまうんじゃないか。俺は化け物だから。
そして俺は目を閉じる。現実から逃れるように。この惨状を、見たくないと目を背ける。