アイスをくわえながらDVDを眺めている達海さんの横にはスナック菓子の残骸と着色料を過多に含んだジュースの空き缶。
思わず顔をしかめてしまったのはゴミを気にしないくらい液晶に集中している達海さんに対してではない。彼は今は退いた身とは言え、仮にも。



「達海さんてスポーツ選手やってたとは思えない食生活だよね」

「いーの。好きなんだから」

「……ならいいけど」



痛め付けてるんじゃないなら、いい。
もしかしたら、彼に限ってあった事ではないと思うけどあり得なくもないと。手首に線を引くように不摂生を繰り返しているんじゃないかと思えた。けれど彼は現役を退いた人間だし、これくらいが普通なんだろう。味覚云々の話はこの際置いておいて。達海さんの場合、血の代わりにアイスとか流れていそうだよなぁ。

俺の言いたいことを察したのか達海さんは不機嫌そうに此方を睨み付ける。



「…俺がそんな人間に見えんのかよ」

「いや、全然」



やっぱり、少しだけ機嫌を損ねてしまったようだ。不貞腐れたようにがじがじとアイスの入っていた容器をかじる姿は小さい子どもみたいで、およそ四捨五入したら40歳の大人のする行動には程遠い。
恨みがましく此方を睨んでくる達海さんに、めんどくさい事になったなぁと他人事のようにぼんやりと考える。こういう時の達海さんは、結構めんどくさい。



「あーあー持田君てば酷いね。俺が自傷で不摂生してると思ってただなんて」

「そこまで言ってないしでも不摂生って自覚はあったんだ」

「持田の心ない言葉で俺超傷付いた」



傷付いたー、傷付いたー! と繰り返す達海さんからは1mmも傷付いたようには見えない。思わず溜め息をつきたくなるのを堪える。本当にどっちが歳上なんだか分かんないんだけど。
ちらりと達海さんを見ればそれはもう良い笑顔で、あぁもう、絶対にめんどくさい。



「アイス買ってきて」



あとタマゴサンドとドクターペッパーとお菓子もね、にひひと笑いながら色々と注文をつけていく王様に俺は呆れるだけしかできない。

勿論持田の奢りだから、よろしくね。あぁもう、本当にこの人は。そのうち流れる血がアイスじゃなくてドクターペッパーに変わるんじゃねえの。そんなことを言えばげらげらと笑われるのは分かっているから、溜め息を一つ吐いて出かけようとすれば後ろから声をかけられる。



「え、一人でいくの」

「は?」

「俺一人にされちゃうの? さみしーな」



全然寂しくなさそうににやにやと笑う達海さんが、憎らしい。
この人は、本当に。










からからとからかう
(一緒に行こーよ!)


title:伽藍