ざあざあと雨が煩い。
明日の練習はどうなるんだろうか、うちのチームは貧乏だからコートに屋根なんてついていない。面倒なら休めば良いか、軽くため息をつきながらぼんやりと雨粒を眺める。

憂鬱だ、原因ははっきり分かっている。それはこの降り続ける雨でも明日の練習への憂いでもなくて、数時間前の自分自身だ。

愛犬と喧嘩をした。
愛犬とはいえそれは言葉の彩であって、実際に彼は成人男性であるし、別にそんな人間を飼うだなんて趣味は僕にはない。ただ犬の名に相応しい程に従順な彼が珍しく僕に対して激昂したのには、正直驚いたけれど、それ以上に安心した。
否定や拒否をしない彼は先輩である僕に気を使っているだけなんじゃないか、彼は、本当は……、その考えは違ったようで。

思考を遮るかのように響いたインターホンの音に思わず顔をしかめる。こんな時間に訪ねてくるのは彼しか居ないだろうと液晶を覗けば。案の定、ずぶ濡れで息を切らした犬がそこにはいた。



「傘くらい差して来なよ。自己管理も仕事の一つだろ?」

「……っ、」



こんなくだらない事で風邪をひかれる訳にはいかない。彼はうちの大事な選手の一人だ。タオルを探しながらもつい言葉に棘を含めてしまう自分に呆れる。いい歳して6歳も下の彼を相手に、こんな子供染みた事をして。彼と僕は全然違うから、ならば、離れた方がいいんじゃないだろうか。



「犬でもいいんで、隣に居たいです……」

「…………」

「嫌いに、ならないで……ください」

「…………」

「ごめんなさい、ごめんなさ……っ」



ボロボロと流れる涙は雨に濡れたせいで同化してしまう。思わず見ていられなくてタオルで髪をわしゃわしゃとかき混ぜる。本当に、これじゃあどっちが子供だかわからないよ。



「バッキーは本当にバカだね」

「えぇっ、……す、みませ…」

「そんなこと言われたら、ずっと離したくなくなるじゃないか」



引き寄せた唇は寒さのせいで冷えていたけれど、暖かく感じた。










ところでそれはプロポーズ?
(熱烈な愛の告白には違いないね)



title:伽藍