彼は自分を王子だと自称しているだけあって、その言動も、行動も、自信に満ち溢れていて、ビビりな俺には羨ましく思う程に。
そんな王子が自分を"犬"としてでも側に置いてくれていることが、認められているようで、密かに嬉しくて、もっと王子や監督や、みんなの期待に応えたいと、そう思うようにもなっていった。

俺には到底手に入れられないようなものを全て持っている王子が、気まぐれから時折突拍子のないことを言うのにも慣れた、筈なのに。



「…え」

「言葉の通りだよバッキー、僕はどうやら君を愛しているみたいなんだ」



おかしいだろう、と笑う王子の言葉は左耳から右耳へ流れた。そんな事を言われても理解できない。愛していると言うのは、つまり、それは…………。
あまりに唐突な告白に頭が着いていかずに呆けていると、王子は声を上げて笑った。



「あははははっ、冗談だよ。本当にバッキーはいいリアクションをするね。想像以上だ」

「王、子」

「…………ごめんね」



忘れていいから、そう言って微笑んだ王子はどこか寂しそうで、いつものどこか余裕のある笑顔とは違うものだった。どうしてだろう、胸が締め付けられるように痛い。それは冗談だったのが残念だったから? 残念? …………どうして。
王子は荷物を持って部屋を出ていく。その表情を見ることは出来なかったけれど、さっきの笑顔が妙にちらついて、ちくり、ちくりと痛みが支配する。


行かないで、ください。
忘れていいからだなんて、そんな。


頭が動き出すより先に、既にその右足は走り出していた。










走れ、走れ、走れ!
(俺は、貴方の事が)



title:伽藍