怖くなったら怖いって言え。痛くなったら痛いって言え。
珍しく試合の時に見たような真面目な顔をするから何かと少しだけ構えたら、随分と的外れな言葉が吐かれた。
「ふーん。達海さんてば優しいね」
「優しくないよ。お前に何もしてやれないから、優しくない」
「何それ」
「医者じゃないからね。痛くなっても俺が何かしてやることは出来ないよ」
なら言っても意味がないんじゃないか、という言葉は直前で飲み込んだ。あまりにその表情が真剣で、どう返していいのか分からなかったからだなんて、いい大人が情けない。
「……いや、違うわ。俺が怖い」
「は?」
「あん時も今も、ずっと俺はビビってんのかもしんないや」
「……」
「思うように走れなくなるしボールは蹴れないし、膝に水溜まるし、なんか痛いし」
それは確実に達海さん本人の事であるのに、達海さんは他人事のように話す。まるで昨日見たDVDの内容を話すみたいに、どこか現実味が薄くて、遠い世界の出来事みたいに感じる。
「何度も思ったよ。ピッチに立てないならこのまま消えちゃいたいなーって」
「…………」
「それでも俺はお前に何もしてやれないから」
優しくなんてないよ、そう笑う達海さんは痛みを堪えているようで、自分の話をしていた時よりもその表情は痛々しく感じられる。何もしてやれないだなんて本気で言ってるんだろうか。俺が自分で決めた事で、このまま破滅に向かっても、全部、俺が。
「……やっぱり達海さんは優しいよ」
達海さんは気付いてないし一生気付く事はないんだろうな、本当に馬鹿みたいだ。
いや、それを知っても離れられない、俺たちは二人ともとっくに。
沈澱して心中して
(その先には、)
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