「つばきくん、つばきくん」



起きて、起きて、と声がする。
ぐらぐらと脳味噌が揺れているような感覚に吐き気がする。思考が定まらないままに目を開けると、酷く泣き出しそうな持田さんが俺を見詰めていた。窓の外はまだ薄暗くて、起床時間になったから起こしてくれた訳ではないんだろう。
そのまま持田さんは俺の被っていた毛布を奪い取る。気温が安定しているとはいえ、朝方は冷える、何がしたいんだ、一体。



「寒っ……何するんスか…」

「良かった。あった」

「?」



ぺたぺたと、確認するように俺の足に触れる。あまりの冷たさに身じろぐと、嬉しそうに良かった、良かった、と繰り返した。
どうしよう、意味がわからない。



「椿君が俺とお揃いになっちゃう夢見た」

「……?」

「全然嬉しくなかった」



ぽつぽつと言葉を吐いていく持田さんに何となく、言おうとしてる事を理解した。あぁ、だから彼はあんなにも泣き出しそうな顔をしていたんだ。俺を、思って。



「大丈夫です。俺は、……俺も、大丈夫ですから」



頼りなく笑えば、「椿くんのくせに生意気だなあ」とどこぞのガキ大将みたいな事を言いながら、すぐにそれは規則正しい寝息に変わった。
俺には持田さんの抱える恐怖が分からない。もしかしたら数年、或いは数十年後に嫌でも分かる時がやってくるのかもしれないけれど、今の俺には彼の抱える物は想像することしか出来ない。そしてその想像を越えるものを持田さんは、一人で抱えているんだ。
とんだ思い上がりかもしれない、だけど俺が一緒に居て、それが少しでも彼のためになるのなら、俺は。










端から見れば愛でしかなかった
(助けるなんて出来ないから)



title:伽藍