偏食がちではあるかもしれない。
それでもファーストフードばかり食べている彼に比べたら幾分かマシだろうとは自負していたし、何より大好きな人が作ったものなら我慢してでも食べたいものだけども。
それとこれとは話は別だとサラダボウルに居座る色とりどりの野菜達を見て思う。



「……お前さ、野菜食えよ」

「食べてるじゃん」

「さりげなく俺の皿に人参だのトマトだの放り込んでるのは誰だよ」

「シズちゃんにたくさん食べて欲しいっていうおれの優しさだよ?」



並んで台所に立ちながら呑気な言い合いをしているのが不自然に思える。俺たちを知る人間が見たら、そのシズちゃんの手元に持たれた包丁でむしろ俺がバラバラに切り刻まれるんじゃないかとか考えるだろうけれどその心配は杞憂に過ぎない。こんなにのんびりとした、どこか会話を楽しんでいるようなやりとりに、殺気は微塵も感じない。
それにしてもシズちゃんは馬鹿だ。口論では俺に勝てる訳がないのに、反論を考えながら必死に食って掛かるシズちゃんが可愛くてしょうがなく見えるんだから、俺も相当末期だ。



「嫌いなもの押し付けてるだけじゃねえか」

「正しくは苦手なものだけど」

「認めやがったなクソノミ蟲」



だって、俺は人の手が加えられた料理が好きなわけであって、野菜そのものだとまた話は変わってくる。トマトソースは好きだけどトマトだけで食べろって言われると微妙な気持ちになるのだ。



「あ、でもシズちゃんにあーんってされたら食べるか…………、っ!」



至近距離に近づいて来たシズちゃんに俺は取るべく正しいリアクションを取った。自らキスをしてくるシズちゃんに驚きながらも、こんなチャンスは滅多にない。舌を絡めようとすると、コロン、と何かが口内に入り、シズちゃんがにやりと笑った。まさか。まさか。



「……………っ!」

「ざまーみろ」



ちゃんと食えよ、と悪戯が成功した子供みたいに笑いながらまな板に戻ってしまう。俺はといえば、口の中を侵食するこいつをどうしようか思案していた。いっそ飲み込んでしまおうと水道に手を伸ばした時に見えたシズちゃんが、耳まで真っ赤だったから、俺は彼には敵わないんだなぁと実感する、そんな平穏な時間が俺たちに流れるなんて。









嘘みたいに何気ない幸せ
(今なら死んでも良いかも)