パラパラと降ってきた雨はバケツどころか浴槽をひっくり返したような豪雨に代わって、練習は中断された。身体冷やさないようにしろよ、とだるそうに告げて監督は拠点としている部屋へと帰っていった。
誰かがこんだけ降ったらグランド浸水すんじゃねえの、プールになるかもしれねえな、年甲斐もないような会話をしていると窓の外が強烈に光りだす。え、これ落ちた?マジでかなり近くね?等とざわめく室内の騒がしさに、自分の心拍数が上がっていくのを感じる。



「…………椿……大丈夫か?」

「だだだいじょぶっす、ち、ちょっと吃驚しただけなんで」



きっと顔面蒼白とは今の俺を形容するのに相応しい言葉なんだろう。情けなくも身体はカタカタと震えてしまっているし、言葉はどもる。二十歳にもなった男のくせに雷に本気でビビるだなんて、恥ずかしすぎる。
それでも苦手なものには代わりはないし、本当は今すぐ泣き出したくなるくらいに怖い。ぐるぐると思考が巡る。



「バッキー、おいで」



聞き慣れた声にハッとした。
声の主である王子は、この騒ぎの中でもいつもと変わらず優雅に座っていた。



「バッキー、おて」

「は?」

「隣に居て、手を握って」

「え、あ……王子?」

「僕は雷が苦手なんだ。頼むよ、バッキー」



その言葉に含まれた真意なんて俺には分からない。ただ、ひょっとしたら自惚れかもしれないけど、王子は俺のために嘘をついていくれているんじゃないだろうかと思った。
のろのろと王子の隣に座ると呼び掛けに応えた犬にするように髪を撫でられる。その優しさに何だか無性に泣きたくなる。



「……あ、りがとう、ござい…ます」

「おかしいな、僕はバッキーに感謝されるようなことはしていないよ?」



感謝をするなら逆に僕がじゃないかな、と柔らかく笑う王子はいつもと代わりなくて、掌からじんわりと伝わる暖かさにいつの間にか震えは治まっていた。ただ、今度は違う意味でドキドキしているだなんて。










お手をどうぞ
(高鳴る掌)