溢れていくのは、執着、未練、嫉妬。
狡いよ、狡い、狡いよ、どうして彼はまだ走りつづけているのに、俺は、もう走れないなんて。こんなの不公平じゃないか。

閉じ籠もって腐ってしまえれば良かった。羽根をもがれた虫みたいに惨めに這っていられれば良かったのに、それをこの人は、許してくれなかった。



「…………なんでラーメン食べると鼻水出るんだろうね」

「普通食べてるときにそういう話しますか」

「さっきから鼻啜ってんのは持田じゃん」



発泡スチロールで出来た容器に隠った湯気に、少しだけ汚い感情が吐き出された。この人はそうやって、気付かないうちにこのやりきれない感情を吐露させている。多分、本人も気付いていないんだろうけれど。それは、俺を過去の自分に重ねているからなのか。



「……椿君、どんどん伸びてくね」

「そりゃうちの7番だから」

「嫉妬しちゃうわ」

「……」



画面の向こうの緑の芝に、ボールを蹴り上げる音に、込み上げるのは絶望だけだった。どうしようもないのは分かっている。だからどうせなら消えてしまいたいと思うけれど、それをこの王様は許してくれない。

まるで拷問みたいに思えた。生殺しだ。どうせなら殺してくれればいいのに、それでも王様は何も言わずに笑うだけで。



「いいな。羨ましい」

「……そっか」



こんな穏やかに、ぬるくゆったりとした気持ちで他人がフットボールをする姿が見れる日が来るなんて一生来ないと思っていたのに。










こんな気持ちは、あの頃に終わったと思ってたんだ。
(始まってもいなかったけれど)





title:伽藍
BGM:ガーゼ/藍坊主