「だっていらないじゃん、もう動かないんだから」



お気に入りの玩具を取り上げられた子どもの癇癪のように、それでも泣きわめくような事はせずに王様だった彼はざくりざくりと自分の足の肉を抉る。
どんな良質なスプラッター映画もリアルにはやっぱり敵わない。きっと一生に一度も見れるものではないだろう強烈な光景に、俺はデジャブを感じた。



「達海さん、俺さ」

「……」

「まだ走りたい、サッカーしたいだけ。彼処が俺の居場所なんだ」

「……」

「こんな有り様で、笑えるよね。あは…は………………………………馬鹿みてぇだ」



見ていられなくなったのは、過去の俺を重ねたからだろうか。キシリと哭いた膝は、俺たちの代わりに泣いてくれたんだろうか。
まだ走りたい、もう一度走りたい、どんなに泣いて喚いても、それは帰ってこない。足の痛みよりも、喪失による絶望の方が辛いのを知ってるからこそ、俺は彼にかけてやれる言葉を持ちあわせていないんだ。

ごめん、持田。
それは彼に対する謝罪でも後悔でもなくて、紛れもなく自分に対するもの。



「達海さん、達海さん、たつみ、さん」

「……………」

「俺はもう、帰れないんだね」



黒く変色した水溜まりに塩水が落ちた。










哀する神様へ
(彼を助けて)




BGM:泣いて/藍坊主