「ねぇこれさ、何かに似てない?」



ファーストフードのおまけの子供向け玩具を手にいきなり何を言い出すのだろうこの監督は。突然の事に一瞬時間が止まったように思えたけれど、誰かがこれ喋るぞ!と気付いて盛り上がり始めた。柔軟すぎると言うか、いい大人がこんなんでいいんだろうか。そもそも監督は何でこんなの持ってるんだろう。
そのチーズのような珍妙な生き物は実はスポンジで、アメリカの子供向けアニメだと永田さんが教えてくれた。日本で言うアンパンのヒーローような存在なのだろうか。
未だに監督は絶対見たことあるんだよこの顔……とか唸っている。ひょっとしたら海外生活をしていた頃の知り合いなのかもしれない。



「あ、あー分かった。持田だ、東京Vの」

「……っ!? に、てないですよ……」

「いやーそっくりだよなぁ、この見開いた目とか」



一人納得して笑う監督と既に飽きられたのか放置されたスポンジの玩具。じっと見つめると、何とも言えない気持ちになる。
確かに持田さんは笑っていたのにも関わらず怖かったけど、だからといってこんな珍妙な生き物と一緒にするのは彼に失礼だ。
やんわりと否定をしようとしたらそれまで黙っていた王子が、とんでもない事を口にした。



「うん、そうだね。バッキーはトラウマ克服のためにそれ、持って帰るといいよ」

「……はい?」

「成る程、これに愛着が沸けば持田のプレッシャーにも勝てるかも知れないな」

「は、え、ちょ」



いいよ、あげる。と渡された玩具に戸惑う。王子が何を思ってそんな事を言い出したのか、そもそも本気なのか冗談なのかも分からないけど監督は確実に楽しんでいる。日本トップクラスの選手をこんなスポンジと同列に扱うとか、そんな。手渡されたスポンジと目が会う。それは、何だか。



「大事にしろよー」

「…………ウス」



……とりあえず、次に持田さんに会ったら謝ろう。









トラウマコンバーター!
(似てると思っただなんて)