・エアスケブ:月見臨静
ありがとうございました!
今日の月はやけに大きくて、街灯に負けないくらいに光が溢れている。トムさんとヴァローナが何十年に一度の満月だとか言っていたような気がする。
ふいに、物悲しいような切ないような気持ちになるのは何故だろう。そう言えば小さい頃は月が怖かった。どこに居ても追いかけてくる光が、いつか迫って落ちてくるんじゃないかと思っていた。
それをこんなにも綺麗だと思えるのは、俺が少なくとも成長したなのかもしれない。
「シズちゃん、何黄昏てるの?」
「綺麗だな、って思ってただけだ」
「ふぅん……、そういえば今日って月が近くなる日なんだってね」
約20年に一度の現象とか願い事をすると叶うだとか、そんな事を言われてもやっぱりピンとは来ない。ただ、小さい頃に怯えた月は、もしかしたらこの事だったんじゃないかと考えると少しだけ納得がいく。
小さい頃に怯えた月を今こうやって眺めていて、次は約20年後。その時俺はどんな風に月を見上げているんだろうか。
「月に願い事とか人間は本当に何かに縋るのが得意だよね。都合が良いと言うか何と言うか」
「……お前は何か願い事すんのかよ」
「特にないけど、……そうだなぁ」
次もシズちゃんと一緒に見れるといいかなって。
臨也は狡い。これ以上ないくらいに優しく笑って、優しいうから。そういう事をされると俺はどうしたらいいのか分からない、得体の知れない感情がぐるぐる回って。
「まぁ俺は月よりシズちゃんを愛でたいんだけどね」
やっぱり今日はおかしい。月よりも臨也を見ていたいと思うなんて、そんなの普通ならあり得ないのに、臨也に触れたいと思ってしまっている自分がいて。
あぁ、もうどうにでもなればいい。今日の俺はきっとどうにかしてるんだ。そう自分に言い聞かせて臨也の指に自分の指を絡める。いつも余裕そうな臨也の驚く表情は、きっと数少ない人間しか知らないだろう表情で、それが優越感に感じるだなんて、俺も大概どうにかしている。
「ねえシズちゃん、」
「……」
「月が綺麗だね」
「……俺はお前の為に死ぬのは嫌だからな」
「知ってるよ」
でも、またこうして次も一緒に月を見るのは悪くねえ。そう小さく呟けば、月よりも綺麗に臨也は笑った。
夢見月
(愛してるよ。)
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