言葉には命が宿るものだと言っていたのは確か、臨也だったと思う。言霊というモノが昔からあるように言葉には力が宿るんだよ、まぁ俺は信じないけど。と笑っていたのは臨也だった、だからこんなことが出来るんだろうか。



「シズちゃんって本当に予測できないよね、だけど俺は……」

「俺もお前が嫌いだ」



その先に続くセリフは決まっているもので、その度に俺はじりじりと胸が締め付けられる。だから言葉を遮った。
こいつは最近おかしい。昔ならその言葉の先には嫌いだの死ねだのだったのに、最近は好きだのなんだと嘘を言って狼狽える俺の反応を見て楽しんでいる。嘘だと分かっていても、他人からの好意を向けられる事に慣れていない俺はそれをどう受けとればいいのか分からない。自己暗示というものがあると新羅には言われたけれど、毎日繰り返していくうちに臨也は錯覚をしないのだろうか。いや、臨也に限ってそんなことはないだろうけれど。
身体的に傷をつけられないなら精神攻撃。ただこれに傷付くと言うことは、つまりは。それは認めたくないし叶わない想いを抱くのは嫌で、俺は何ともない振りをするしかなかった。





「…………」

「…………帰る」



静寂を破ったのはシズちゃんだった。
あまり饒舌でない彼は、俺の言葉を繰り返すか、激昂して物を投げ付けるかしか出来ない。口喧嘩で勝てる自信なんてないんだ。
でもここで帰られたら困る。俺はずっと見てきていたから、微かな変化に気付いていた。俺を見る表情や、声の変化、それは確かに俺からの言葉に怯えているようで。



「ねぇシズちゃん、どうして"俺も"なの?」

「お前は俺が嫌いだろ?」

「……うん、でも同じくらい」

「やめろ、うるせぇ」



知ってる、俺の言葉はシズちゃんには届いていない事も、その言葉がシズちゃんを傷付けている事も全部知ってる。それでも目には見えないこの気持ちを表すには言葉で伝えるしかないじゃないか。
言葉は口に出すことで意味を成すなら、それを伝える以外に俺に出来ることは何もないから。自分でも怖かった。身勝手だけれどシズちゃんが傷付くのを見ては傷付いていた。
それが傷付けてしまった事か、信じてもらえない事かは分からないけれど。



「好きだとか、そんな嘘聞き飽きた」

「そうだね、……シズちゃんの事、俺は好きじゃない」

「やっぱり……っ!」



キッとこちらを睨むシズちゃんの目は、悲しみが滲んでいて、もうこんな不毛な気持ちは捨ててしまいたいと思うけれどどうしてもそれが出来なくて。その腕を引き寄せて乱暴にキスをする。唇から舌を無理矢理捩じ込むように歯列をなぞり、舌を絡めていく。
息の仕方が分からなかったのか、苦しそうに胸を叩かれると漸く唇を離した。初めてだったのだろう、荒い息を整えるように肩で息をするシズちゃんを見ると、押し込めて捨てようと思った気持ちが戻ってくる。



「ふ……はぁっ………な……」

「好きじゃない、愛してる」

「バカじゃねえの…」

「うん」

「俺が、そんな事、信じるかよ…」

「いいよ、信じなくて」



真っ赤な顔で俯くシズちゃんの表情は俺からはよく見える。そこに喜びの感情が1mmでもあればいいのになぁ。状況に着いてけないまま涙が溢れそうな瞳を舐めとり、瞼に軽くキスを落とす。
訳が分からない、と混乱するシズちゃんに、出来るだけ優しく笑いかけた。



「信じさせてみせるから」



覚悟してね? シズちゃん。











不可視の想いを
(君に見えるように)