・来神
珍しく喧嘩をせずに下校することができた。
隣にノミ蟲が居ることは不本意だが、こいつも今日は何か企んで居るわけではなさそうだから、たまには仕方ないかと思って歩いて居ると、後ろから小さい子供の声が聞こえた。
「あー!いざ兄だ!」
「兄……(いざや兄さん)」
「げ……舞流、九瑠璃……」
「いざ兄何してるの?!」
「……友……?(お友だち?)」
「あ、いや、俺はそんなんじゃ……」
お揃いの赤いランドセルを背負っている少女たちはよく見ると臨也に似てる。
もしかしなくても、妹なんだろうか……。こんな小さい子供に俺はお前たちのお兄さんと殺し合いしてます、だなんて言えるわけがない。どう考えてもトラウマ確定だろう。
そもそも俺とノミ蟲の関係ってなんだ?殺し合いしてるから敵なんだろうけど、そうじゃなくて、何だろう…。ていうかアレだな、臨也に妹が居るなんて別に知った所でなんでもないとは思ったけど、実際に見てみると…。
「お前ら、苦労しそうだな……」
「ちょっと、どういう意味?!」
「いや、だって……なあ?」
「わかった! この人がシズちゃんさんだ!!」
「……噂…!(この人があのシズちゃんさん)」
「ちょっ、舞流! お前! 九瑠璃まで……!」
臨也の妹たちに憐れみの視線を送ると臨也が反論してくる。お前が兄とかそれだけでちょっとした罰ゲームじゃねえか、いやでも家ではもしかしたらいい兄貴なのかもしれない。俺の事も知ってるみたいだし……俺の事を、何で知ってるんだ?
「俺はシズちゃんさんじゃねえよ、平和島静雄だ……なんでお前達は俺の事知ってるんだ?」
「しずおさん! いつもね! いざ兄が言ってたの!」
「兄……好……(いざや兄さんの好きな人だって)」
「ちょっと待てお前たちマジやめろこのクソガキ!」
は?好きな人……?
それは違う人なんじゃねえのか?
「んー……それは人違いじゃねえかな」
「そんなことないよ! だっていざ兄いっつも言ってるもん!」
「……愛……常……(大好きなんだっていつも言ってる)」
「やめろって言ってんだろ! ほら九瑠璃も舞流も行くぞ!」
「えー、しずおさんと話したい! いざ兄のケチ!!」
「……再………(しずおさん、またね)」
正直、凄く驚いた。
臨也の妹たちの言葉も、普段からは想像出来ないような口調だった臨也も、じゃあね!と二人を引き摺って行く臨也の顔が赤かった事も、全部が予想外で驚いた。でも、何よりも、それを嬉しいと感じて、早くなる自分の鼓動に一番驚いた。
不意打ちギャップ
(僅かで大きな変化)
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