・派生達はパソコンの住人
・色々混ぜたらカオスになった






ずっと俺は見ていた。
臨也がまた新しいプログラムを作っている事を知った時に、不思議と疑問は生まれなかった。何が楽しいのかは分からない。けれどもどんなに性能が良くても空っぽで生まれてしまった俺には、到底理解することが出来ないから。
硝子の柩で死んだように眠る彼の格好はまさにお伽噺の王子様で、俺は自分の製作者でもある臨也の感性を少しだけ疑った。

誰が来ても変わらない。
兄と津軽は仲良しで、静雄と臨也は素直になれなくて、俺は相変わらず空っぽで、きっとそれはずっと変わらないから。


それでも何故かここに来てしまっていた。ぼんやりと硝子の柩を眺める。彼は俺を必要としてくれるのか、とか、そんなどうでも良いことを考えながら、一人で無機質な柩で眠る彼が寂しくないようにと花を届けた。自分らしくない事は分かっていたけれどやめなかった。どうしてなんだろう。分からないまま俺は柩を訪ねた。



「……っかしいなあ…」

「どうかしたのか」

「あぁ、何かウイルス入っちゃったみたいだから消えるまではフォルダに戻ってて?」



――仕方ないな、これ、消すしかないか。



これ、はあの新しいプログラムの事だ。まだ名前も知らない、柩の中で生まれてくるのを待つ彼が、消されてしまうのか?
そんなことない。彼はきっと、俺とは違って、生まれてくる意味があるから。消されて良い訳がないんだ。



「……臨也!」



本当に、俺らしくない。








ずっと君を見ていた。
最初に出会った時、俺は柩の中だったけれど知っていた。寂しそうな、優しい目をしている彼を抱き締めてあげたいと、動かない身体を歯痒く感じて、すぐに理解した。彼こそがマスターの言っていた、姫なんだと。



「……データの破損が酷くてね、初期化する事にしようかと思ったんだよ」

「だからってあんな所に閉じ込めなくてもいいんじゃないですか?」

「そうでもしなくちゃサイケとか津軽が会いたい会いたいってうるさいから」

「てっきりマスターの趣味なのかと思いましたよ」



俺が生まれてくる前に、月に一度から週に一度、二日に一度から毎日やって来る客が居た事を俺は知っている。彼が様々な色の花を持ってきていたことも知っている。
彼は時折唄を口ずさむ事もあった。人前ではあまり歌うことはないらしいが、どんな歌よりも綺麗な歌だった。



「確かに初期化は避けたかったけど、なんだかなあ……」

「お伽噺みたいで素敵な展開じゃないですか」

「俺の顔でそんな事言わないで鳥肌立つから」



生まれてくる俺の為に無数の薔薇に抱かれて眠る姫が愛しくて愛しくて、同時に切なくなった。
どれだけ寂しい思いを、悲しい思いをしたんだろうか。そんな彼を守ってあげたいと願っていたのに、まさか逆に守られるとは予想外だった。予想を越えるのはオリジナル譲りだよ、とマスターは寂しそうに笑っていた。
どうやら彼は勘違いをしていたようだ。彼の居場所は確かに此処にあるのに。


だって俺の生まれてくる意味だなんて、ひとつしかないんだよ。デリック。




「Salut, enchante……Etoile.」




あぁ、やっと会えたね。










君に逢うための物語
(ずっと待っていたよ)