私が物心ついた時には、もうこのアジトいた。マダラは私の親のようなもので、赤ん坊の頃から今までずっと育ててくれたらしい。彼はよくとある自らの目的について私に語っていた。その目的を達成する上で私の力が必要になってくるんだとか。良く分からないけれど、私には生まれ持った特殊な眼の力があるらしい。それはマダラも同じだ。それが何であるか、今日まで何も聞かされた事は無かった。ただ、目的の為に。マダラはいつもそう言っていた。

闇に包まれた小さな一室、一筋の光が自分に向かってのびてくる。眩しさのあまり、目の奥がずん、と傷んだ。
目を細めていると、いつもの聞きなれた事が響いてきた。

「こいつも我々と同じ"うちは"だ。お前にくれてやる。好きなように遊んでやれ。」

「………こんな女が、"うちは"なのか?」

「……誰?」

「うちはサスケ。お前やオレと同じ血族の者だ。今日からここを暁と同じくしてアジトを構えることになった。」

「……………。」


何も言葉を発する事なく、サスケと呼ばれた男の人は私の顎を手ですくって顔を近づけた。眉をしかめられ、何か悪い事でもしたのだろうかと不安になると同時に、早くここから出ていって欲しいと思った。無理矢理に合わさった瞳の奥底、感じるものは酷く冷めきっていて、深い深い闇の中に落とされたような感覚に囚われた。狂気を孕んだ視線は私を捉えて離さない。怖い怖い怖い。この人には近づいてはいけない気がした。

「ふっ…サスケ、大概にしておけよ。」

マダラはサスケを残し、私の部屋から出ていってしまう。どうしたらいいの?この人は何?

「あ、うっ………。」

顎にあった手が頬に当てられさらに下へするりと動いた。そしてニタリ、と笑いサスケは私の首を片手を使い締め上げた。苦しくて、足をばたつかせたが余計にそれこそ自分の首を自分で締めるようなものだった。

「………や、め……てっ。」

何とか振り絞るような声でそう告げても、力は一向に弱まらない。このままじゃ、この人に殺されてしまう。どうにかして逃げなければならないが、生憎部屋には外からしか開かないような鍵がかけられている。もし脱出できたとしても私を助けてくれる人なんてここにはきっといやしないだろう。それは前から分かっている。

「………気に入ったぜ、お前。」

やっと解放され、がくんと床に膝を落とす。むせかえる程の酸素が一気に体内を駆け巡る。まだ、息が整わないうちに着ていた物を刀で破られた。足は予測できない恐怖に震え使い物にならない。助けて、一言届いてくれればいいのに。

「………さて、どうしてやろうか?」

低く、低く呟いたサスケの声がさらなる恐怖を煽る。きっともう逃げられない。マダラが言った、大概にしておけ、というのは殺さない程度にということだろう。けれどもこの人はマダラの話なんてまるで聞いていないようだった。本当に殺されてしまうかもしれない。そう思った時、自分の不思議と死に対する恐れというものが無くなっていくのが分かった。かつては恐ろしくて仕方なかったものなのに。しかし、ここで育った私にとって"死"は、この暗闇から逃れる事のできる唯一の方法だと知っていた。いつしか聞いた、幾千の花々が咲き乱れる桃源郷を思い描く。

「っぁ……あっ!」

首筋を食らいつくように噛まれ、生暖かい血が流れてゆく。さらには露になった肌を刀で切り刻まれて、無数の傷を生む。鋭い痛みが脳まで一気に到達する。苦しむのなら早く楽にしてほしい。朦朧とする中そう思った瞬間、目の前は重々しい暗闇ではなく白い光に包まれた。なんて美しい、死後の世界は輝きに満ちている素晴らしい世界だと私は確信した。そうして私は意識を、いや命を手放した。


白に支配されてゆく、何もわからぬまま