確かに孤独ではなかった
ああ…、なんか孤独やなあ
柄にもなく、ふとそんなことを思った。別によくよく考えれば独りというわけではないし、友人も自分を好く思ってくれる人もいるのだけれど何となく、意味もなく、そんな気分になってしまったのだ。
「時間の無駄や…」
実にその通りだ。自分らしくもないし、なにより一番嫌う無駄を自ら作ってしまうなんて。完璧とは程遠いではないか。
今に何か不満があるのか、そう問われればそうではない。テニス部の部長になり部員にも友人にも恵まれ、むしろ明るい人生を生きている。しかし今までに分かり合えなかった人、離れていった人、そういった人達ともし今関わりがあったならどんな人生を歩んでいたのだろう、と答えなど見つかりそうにもないことを考えてしまったのだ。こんなことに悩んでいても終わりなど見えない。でも考えるのを止めることも出来そうにもない。
聞き覚えのある着信音が鳴り響いた。出ないでおこうかと思ったがしつこく鳴り響くので仕方なく携帯電話を見ると、それは意外な人物からで俺は慌てて通話ボタンを押した。
「もしもし!」
自分と不釣り合いな上擦った声が出てしまって、電話口の向こうのその人は可笑しそうに笑っていた。羞恥心に苛まれる。
『ほんまに白石?ごっつい変な声!寝起き?』
「俺は正真正銘白石蔵ノ介や。今のは…急に喋ったらなることあるやろ」
『えー、白石そないに喋ってへんかったん?ぼっち?』
「俺がぼっちなんかあり得へんわ」といつもの調子で返したかったが、さっきまであんなことに悩んでいたため、とても拒否出来なかった。急に黙りこくったせいか電話越しに焦った声が聞こえる。
『え、なんで無言?なんかマズいことやった?』
声を聞いただけで慌てふためく姿がまるで見ているかのように想像できて思わず小さく噴き出した。すると今度は拗ねたような声に変わる。
『お、俺のことからかったん!?酷いわ白石!』
「いやー、ちゃうちゃう。でもあんまりにも慌てとるから、ついな」
『性悪!急に黙ったんが悪いんやん!』
「堪忍な。そないに怒らんといてや」
『怒ってへんし!』
実に不思議だが、コイツと喋っていると時が経つのも忘れてしまうし、他のこともどうでもいいことのように感じてしまうのだ。大事な考え事をしているときは困りものだが、今みたく意味もなく悩んでしまったときには本当に助かる。
「颯汰、ありがとう」
まだ拗ねた様子の颯汰にそう言うと、余程俺が素っ頓狂だったのかまた受話器越しに慌てだした。ああ、なんて馬鹿らしいことに悩んでいたんだろう。颯汰がいれば俺が孤独になることなんかあるはずもなかったのに。
確かに孤独ではなかった
(無意識に気づかせてくれる人)
title by たとえば僕が
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