誕生日のときにした約束を果たすため、私達は出掛ける準備をしていた。巨人の殺し方は知らないけど、人間の殺し方くらいなら教えられる。もし教えることがないくらいちびが強かったら。その時は、うん、どうしようもねえ。
家から出て、鍵を閉めようとするときにふと気がついた。
「ちび、あの時なんで鍵のかかったドアの前に座ってたの?なんでお前外にいるのに鍵かかってたんだ」
「ちびじゃねえ。…あの時ってなんだよ」
「分かるだろ。あん時だよ」
「あん時ってなんだよ」
…こいつ絶対解って言ってんだろ。
「生意気」
「いだっ…おとなげねえ」
いいんだよ、別に大人ってほどの年でもないし。でもちびからしたら私は大人なんだろうなあ。めんどくさー。
「で、なんでなの」
「……」
黙秘しますってか?大人気ない私に通用するって思ってる辺りまだまだ子どもだな。
「もう一発いっとく?」
「お前のすがたがまどから見えたからまどから出て追いかけた」
窓からって。家、小さいアパートとは言え二階だぞ?
「留守番してろって言ったじゃん」
「……」
まだ黙り込むちび。私はちびにもちゃんと見えるように、三度(みたび)拳を握りこんだ。
「…みずほの目が。赤かったから」
「あー、なるほど」
駄目じゃん私。良かった、誰かに見られてなくて。いやちびに見られてたんだけど。それはまあ、結果オーライ?
***
「う、わ…」
目的地に着き。リヴァイは、絶句していた。冬だし、誰もいないから別にいいんだけどさ。夏だと人が多いここも、冬なら人目を気にせず暴れられる。
そこは、一面の海だった。
ちびの世界だと海が見れないらしく。だったら見せない方がいいかなーとは思ったんだけど。外の世界にこんなものがあるって知ってればそれを糧に生きていけるかなあみたいな。
…あれ?
なんか私、やばくないか?
えーと、とりあえず、落ち着け。あれ。こんなつもりじゃなかったんだけど。人間の殺し方教えようとしてるし?なんか生き残ってほしいみたいなこと言ってるし?え。無自覚だったのか。やばくないですか。
……情が、移ってるのは、認めよう。
不本意だけど。不本意以外の何物でもないけど。大事なのはそこじゃない。いや嘘。そこもかなり大事だった。けどもう移っちゃったもんはしゃーない。重要なのは。
私が、いざというとき、非常のときに、こいつを殺せるか。ということ。
もしこいつが、私の敵になった時。私はこいつを殺せるのか?
もし、お腹が減って、無意識にこいつを食べてしまった時。私は、絶望しないでいられるのだろうか。
本当に大切になってしまったなら。手放さないと、いけないんじゃないか?
「…!みずほ!」
「え、や、な、なに?」
「なにじゃねえよ。なにぼーっとしてんだ」
ちょっと自分を顧みて。やばいなあと思ってただけ。
「なんでもない。というか、そういうちびの方が唖然としてたでしょうが」
「……」
「どう?これが海だよ」
「…うみ」
「うん、海」
リヴァイが、私の服をぎゅっと握った。
「すこしだけ、こわい」
「怖い?なんで」
「地下はせまい、から。しらなかった。自分が、ちいせえこと」
「…そっか」
私は、お前が怖いよ。自分よりはるかに小さい、お前が。