「…なにやってんの」
「それはさっきも聞いた」
家の、ドアの前で、ちびが座ってた。
「うん、そうかも」
なんか、さっきと同じ会話をしている気がする。これはあれか。学習しないなあってやつ?
「かぎがないから、家に入れない」
「…ああ、そっか」
なんか、おかしくないか。
***
自分の行動…じゃないな、ちびの行動に疑問を感じつつも、とりあえず鍵を開けて家の中に入る。
「はらがへった」
え、お腹減ったの?
「ご、ごめん…?」
…買い置きあったよな。カップラーメンにお湯を注ぐ。どうしよう。三分も待たなきゃいけないのか。
沈黙。
ええと、なんでこいつ家にいるの。もう通報済みか。でもよく考えたらちびに公衆電話を使えるような小銭もあげてないし、携帯ももちろん渡してない。その辺の人間に頼んだか?巨人が、居たって。そっか、こいつ喰種ってものを知らないのか。
だとしてもだ、人食ってたやつの家に帰るか?人類最強の兵士のくせに。さっきのことは夢だとか脳内で処理されたのかな。それはそれで都合はいいんだけど。
「どこからどこまでうそだったんだ」
「へ?何が」
「何がって…」
わかるだろ。
びっくりしたからつい聞き返してしまった。確かに、この状況で何が?はないな。
というか、追求しないんじゃなかったのかよ。そう言われたわけでもないけどさ。けどこんな普通な感じに接しられたら無かったことにすることにしたのかなとか思うだろ。
「どこまで嘘だったんだと思う?」
逆に聞いてみた。自分がなにをしたいのか、私にもよく分からない。もしかして、はぐらかしたいのか。
…無理じゃね?
「ぜんぶ」
容赦ないな。さすがの私でも、何から何まで嘘をつけるほどの想像力はないぞ。
どうしよう。ここが未来だっていう嘘は貫き通した方がいいかな。本当のことを言う意味も特にないし。じゃあ、あと嘘ついたのなんだっけ。あー、未来人はなにも食べないんだよとか言った気がする。今度は、未来人は人間を食べて生きてるんだよとか言ってみようか。外に出たら人間が普通に野菜とかパンとか食べてるところを目にするだろうけどね。あれは人間の肉を加工したものなんだよ、とでも誤魔化す?
でも、こいつからしたら未来の世界は巨人に乗っ取られているって言われるようなものなんだよな。そんな嘘、私だけの都合でついていいのか。
「リヴァイ」
私は、ちびの顔を見た。ちびは、最初から私の顔を見ていた。
「私、人間じゃないんだ。人間を、食べて生きている」
相槌はない。しかし表情も変わらない。
「生まれつき、人間を食べないと生きていけない。そういう生き物なの、私達は」
ごくんと、唾を飲んだのは、私だったかリヴァイだったか。
「巨人なのか」
「巨人じゃない。喰種っていう生き物」
「…ぐーる」
私もこいつも、一体なにがしたいんだろうね。
「おまえ、俺も食べるのか」
「うん。逃げるなら今の内かもよ」
「にげても殺すんだろ」
「うん。そうかも」
「…じゃあ、にげない」
そうか。こいつ、まだ兵士でもなんでもないんだっけ。人類最強なんかでもない。ただの、ちっちゃいだけのこどもだ。
「ここにいる」
こいつの心臓は、こいつだけのものだった。まだ。