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一万打ボツ 銀さんと昔馴染み

ずいぶんと汚い空だ。
江戸に来たばかりの頃はよくそう思ったものだが、慣れとは怖いもので、今ではこれが普通となってしまった。宇宙からやってきたあやつらも地球に浸透しきって、私が産まれた頃の地球とは変わってしまった。
それでも変わらないものもある。昔の馴染みというやつだ。その馴染みを訪ねるべく江戸に来たのだが、手掛かりもなく出てきてしまったため、もう長い間闇雲に探している。

だがそれも今日までだ。先日、かぶき町に白夜叉がいるという噂を聞いた。白夜叉と呼ばれる奴がそう何人もいては敵わないのであいつで間違えないだろう。全く、もっと分かりやすいところにいて欲しいものだ。だったらどこであれば良かったのだと聞かれても返答に困るが。しいて言うならば、私が最初に訪れた江戸の町に都合よく居てくれればこんな面倒にはならなかったであろうに。手間を掛けさせおって。


***


――万事屋銀ちゃん。そう書かれた看板の下に私は立っていた。かぶき町に入ってしまえば、白髪の侍なんてものは目立つようで、簡単に噂を集めることができた。なんでも、スナックの二階で万事屋なる、なんでも屋を営んでいるとか。よくもまあ元伝説の攘夷志士がそんな目立つことを。

二階へと続く階段を上がる。なかなか立派な住まいなようで腹が立った。私のボロアパートと交換してほしいものだね。
インターホンを鳴らし、しばらく待つ。これで留守だったらどうしてくれよう。私はそんなに気が長くない。

「はーい」

…む。あいつはこんなに若い声だったろうか。まさか若返ったとでもいうのか。そんなの、ろくなことにならんぞ。

「あれ、女の人だ。依頼ですか?」

黒髪、眼鏡、そしてなにより天パでない。以上のことより、こいつが昔馴染みとは別人だということを判断した。誰であろうか。

「銀時、坂田銀時という奴はいるだろうか」
「銀さんのお知り合いですか?」

お知り合い、まあ知り合いだろうな。というか、銀さんとはねえ。ずいぶんまた可愛いあだ名をつけられたものだな。看板は銀ちゃんだったか。

「今はちょっと留守にしてるんですけど…。その内帰ってくると思うので、良かったら中で待っていてください」
「ふむ。それでは遠慮なくお邪魔させていただこう」

ここの従業員だろうか。なんて出来た子なのだ。

「おー、客アルか。あ、依頼アルか!」

チャイナ服を纏った少女がソファに鎮座していた。白い肌。傘は見当たらないが夜兎であろう。あいつが天人を近くに置いているとは驚愕だ。それも戦闘民族。てっきり天人は憎んでいるのかと思っていたが。まあ、偏見はないやつだしお人好しだからな。納得できないこともない。

「残念だが依頼ではない。昔馴染みと再会すべく訪れたまでだ」
「昔馴染み!銀ちゃんの知り合いアルか!」
「神楽ちゃん、落ち着きなよ。とりあえず座ってください」

賑やかだな。これが若者のテンションというやつか。私には眩しくて、目が眩みそうだ。

「ああ。三島ユキという」
「あ、僕は志村新八です。こっちは神楽ちゃん」
「神楽アル。三島は銀ちゃんのコレアルか?」

その年齢で小指を立てるジェスチャーってどうなのだ。誰が教えたんだか。

「いいや、そんな時代はなかったな」私はあいつの小指だったことは一度もないからな。

「少し聞きたいのだが、お前らはここの従業員であろう?住み込みなのか?」
「私はそうヨ。そこの眼鏡は違うけどな」
「眼鏡って…」

いいけどね別にもう…とかぶつくさ言っているが、これはきっとスルーで構わないのであろう。それにしても年下の少女と同棲ねえ。それはまた愉快な。

「ほう。とうとうあいつもロリコンと化したか」
「そうヨ。しかも金が無いプー野郎ネ」

ふむ。良いことを聞いた。そんな私の心情を察したかのように眼鏡殿が苦笑している。いや苦笑したのは中華殿の発言か。比較的覚えやすいあだ名の決定である。

「たでーまー」
「あ、銀さん」

ようやく家の主のお帰りか。私はニヤニヤと、数年振りの再会となる挨拶を頭の中で組み立てた。
どんな変貌を果たしているのやら。はたまた何も変わっていないのか。

「おい、誰か着てんの、か…」「やあ、ロリコンの白夜叉殿」「お前、」「しかもプー野郎らしいな」「え、は、」「白髪に天パも健在ではないか」「白髪じゃねえ銀髪だ」「だいたいそんな目立つ容姿をしておいて何故こんなに見つかりにくいのだ」「え、なにお前俺のこと探してたの?」「……っは」

…読みづらい会話のキャッチボールだな。ああ、探したさ。それを口にするのは果てしなく癪だがな。

「おい、お前ら買い物行ってこいよ。コイツが財布差し出してくれるらしいぜ」
「貴様、勝手に」

決めるなと言い掛けたところで、ヒャッホーという中華殿の歓声とそんな悪いですよと遠慮がちにしながらも目が爛々と輝いている眼鏡殿の様子をみて口が止まった。仕方がない。

「いいだろう。好きなものを買って来るがよい」

嬉しいのは分かったがどうにも煩いな。どれだけ金がない生活をしているのだ。


***

「それで、」

中華殿と眼鏡殿が小躍りしながら(比喩ではない)出ていった後、私は切り出した。

「あやつらに聞かせたくない話でもあったのか」
「いやー別にぃ。折角久々にユキちゃんと再会したんだから二人っきりになりたかっただけだし?それに探してくれたみたいだしなあ」
「抜かせ」

全く。心配した私が阿呆らしいではないか。前にも増して活き活きしやがって。

「目は死んでるがな」
「なんだよ突然。ひでえ」
「事実を述べたまでだ」

あれ、私はこいつのことを心配していたのか?まさか。たまたま長期間暇にだったからなんとなく探していただけだ。そう、なんとなく、どうしてるかとか生きているのかを確認しに来ただけだ。他意は、ない。はず。

びくっ

頭に何か乗せられたのを感じて慌てて振り払った。そのとき奇声を発したような気もするが、気のせいということにしておこう。

「な、なにをする!」
「やっぱり。考え込んでると注意力散漫になるところ。それから、」

銀時が私の顔を覗きこもうとする。それから逃れるべく手で顔を覆った。オーバーリアクションだ、と客観的に思う。いつの間にか気配は隣に移動していた。

「頭撫でられるとすぐ真っ赤になるところ」

そういうとこ全然変わってないな。耳に吐息が掛かるくらいの至近距離で告げられた。近い無駄に近い。その後に、意外と耳も弱いよなあと聞こえた瞬間、そいつの腹に拳をお見舞いした。