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プロローグ
 
夢を見ていた。他の物どころか、自分の体さえ知覚できないような濃い暗闇。これはなんだろか考えようと思うのに、何も考えることができない。思考はするりとこぼれ落ちて、目に見えないまま溶けていく。何も考えられなかった。そこには、なにもなかった。

***

唐突に目が覚めて、自分が外で寝ていたことに驚き、寝ぼけた目で辺りを見回す。どうやらそこは死体が転がる荒野だった。あー、そっか、戦場、なるほど。全く意味が分からない。俺はどうしてこんなところにいるんだ?昨日、どこで寝たんだっけ。少なくとも外じゃなかったはずだ。じゃあなんでこんなところで目が覚めたのか。全く身に覚えがないので、誰でもいいから説明してほしい。いや、ここでいきなり誰かが現れて説明し始めてもそれはそれで驚きだけど、そんな驚きの展開でもなんでもいいから。一体ここはどこだろうか。

ばさっ。と、カラスが大きな音を立てて飛び立った。カラスが居なくなったことで、生きているものは俺だけとなった。死んでいるものはたくさんあった。とりあえず、自分以外の生きてるものを探して歩き始めた。

行けども行けども戦場は戦場で。代わり映えのない景色は体力以外の精神力なども奪い取っていくようだった。おまけに空腹で倒れそう。母さんの飯が食べたい…と、ふと呟いたところで思考が止まる。母さんって誰だっけ。
父親ってなんだろう。兄弟は居ただろうか。俺って本当に俺だったか?私だったか?僕だったか?目が覚める前は何をしていたのか。どこにいたのか。いつだったのか。分からない。覚えてない。もしかしたら、なにも無かったのかもしれない。目が覚めたら戦場に居たという状況が異常だということは分かるのに、眠る前はこんなところにいなかったことは分かるのに、それ以外のことはなにも分からくて。もしかして、もしかしなくても、これは、記憶喪失というやつなのだろうか。記憶を喪失しているくせに、なんでわかるんだろうという疑問は適当に隅に追いやった。

見知らぬ土地で。たったひとり。記憶喪失。希望を持てない展開であることは、間違いなさそうだった。



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