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「月が、綺麗だ」

学校からの帰り道。幼馴染みが唐突に呟いた。そう言われて見上げた空は。なるほど、確かに満月が自身の存在を存分に主張していた。ついでに赤司は、幼馴染みの横顔もちらりと覗き見る。癪なことに幼馴染みのほうが五センチばかり背が高い。昔は自分のほうが高かったのだが。
赤司の視線に気づいているのかいないのか、空を見上げたままぼんやりとしている幼馴染み。何を思って冒頭の台詞を発したのかと考えてみたが、この様子だとただなんとなく口にしただけだろう。しかし、いきなり幼馴染みの視線が下に落ちた。

「あ、いや、別に、そういうんじゃないんだけれども」

なにがだ。

「あー、分かんないなら分かんないままでいてくれ」

そう言われると気になるのが人間の性ではないのか。しかし、こうなると聞いても何も言わないということは知っているので無駄な口は開かない。それにしても、何故微妙に照れているのだろう。

「ああ、」

そこで一つの可能性が頭に浮かんだ。いや、可能性と言うよりかは確信の方が近い。

「夏目漱石」
「黙れ」

月が綺麗ですね、か。そのエピソード、実際に夏目漱石が言ったのかどうかは曖昧なのだが。

「死んでもいいわ、とでも返せばいいのか」
「知らん」

自分から言い出した癖に。しかも、さっき慌てて弁解などしなければ別に特に気にしていなかったのだから見事な地雷である。昔からだ。こいつが変なところで微妙に阿呆なのは。

しばらく、無言で歩いた。二人ともお喋りな方ではないので、こうして黙って歩くのはそんなに珍しいことでもない。しかし、今日の沈黙はいつもと違う。隣を歩く苗字が、どことなく何かを言い出そうか迷っているような雰囲気があるのだ。その証拠に、口を開けたり閉じたりという動作が頻繁に行われている。
言ってしまえばいいものを、と待っているのだが、一向に声を発しない幼馴染みに赤司は口を出すことにした。

「言いたいことがあるんだったらさっさと言ったらどうだ」

今更何か遠慮するような間柄でもないだろうに。何故躊躇っているのだろう。流石に赤司だって、テレパシーなどできはしない。それに近いものを習得しているような気がしないでもないが。

「なんというか、その、だな…」

はっきり言え。

「もし赤司の父親と母親が出会わなかったり、一年早く子どもを産んでたりしたらこうして二人で歩くという事実は存在しないのだなあと考えたりしてだな…」

…で?

「今ここでこうして二人歩いているということは偶然の連続から成り立っているわけで。これこそ、ある意味奇跡と言っていいのかもしれない」

だからなんだ。

「あー、その、なんだ。つまり何が言いたいのかと言うと、誕生日おめでとうということが言いたい」

まどろっこしい。そう突っ込んでやろうかと思ったが、考え直して素直に礼を口にした。

「ありがとう」

まあ、幼馴染みがプレゼントを律儀に用意しているなんてことは知っていたが。いつ渡す気なのかと、自分から言い出せるようなことでもないので焦れったかった。
それでも、嬉しくないわけでは、ない。

「あと、赤司と出会えて良かったかもしれないと思っていたりもする」

…別に、台詞が取られたとは思っていない。同じことを思っていたと、口に出せばいい話なのだから。





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