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灰崎が部活を辞めたらしい。
だせえ、とただそれだけ思った。私はそれなりに部活に気合いをいれて活動していたから。嘘だけど。ただいま帰宅部の活動中、つまり帰り道をたらてらと歩いているだけだ。
暑い。たるい。喉乾いた。水筒は飲み干した。しかし私は下校中に飲み物を買うということを、校則で禁止されているからという理由でしたことがなかった。変なところで真面目だと、よく言われる。

「よお」
噂をすれば、かと思ったら普通に違った。クラスメイトのバスケ部の奴。とってもタイミング良く(いや悪くか?)灰崎が表れたのかと思った。絶賛帰宅部活動中の私の隣を歩き出したデカイやつ。私は口を開く。
「灰崎が部活、辞めたらしいね」
目線を上げないと、目が合わない。そんなことのために使う労力は持ち合わせていないので、目線はその辺。右斜め下。
「ああ?そういえばアイツ来てないな」
知らなかったのかよ。チームメイトにも認知されてないとか、可哀想なやつ。私は一瞬だけ灰崎を哀れんだ。一瞬だけ。
しかし、こいつは私の隣で帰宅部を謳歌していいような人種だったろうか?否。その点を追及してみると
「いいんだよ、もう」
という返事をいただいた。そうか、いいのかもう。いや何がだよ。突っ込んで聞くのは面倒だから聞かないけどな。

クラスメイトと駅で別れて、今家の前。そして隣の表札、灰崎。お隣さんでありやがるそいつは幼馴染みでいやがったりもする。失敬、日本語が大変に乱れた。余談だが私の家に表札はかかっていない。ただマンションの部屋番号が記載してあるだけだ。理由は忘れた。なんか表札を新たに手作りしようとしてそのまんまになっているとか多分そんな感じ。しばらくそこに立ち止まっていたが、ようやく鍵を開けて自分の家の中に入った。灰崎の家なんか訪問して何をするというのだ。

死ねばいいのに、と誰もいない部屋の中心で呟いた。誰がとかは自分でもよく分からなくて。ただなんとなくセンチメンタル。思春期だからかな。どさっと鞄を下に落とすと、そのまま座り込んだ。もぞもぞと体育座り。床がつめたい。
「死ねばいいのに」
思春期じゃなくて、中二病か?どちらでも、大した差はないか。なんでもいいや。

どうやらそのまま寝てしまったようで、床はすっかり自分の体温で温まっていた。目を開けると、隣に灰崎がいた。何故だ。素直に疑問を口にする。
「なにやってんの」
言ってから気づいた。それよりもなんでここにいるのか聞くべきだわ。まあいいや。
「観察中」
なるほど分からん。分からないということが分かったとでも言ってやろうか。
「何を」
「お前を」
即答かよ。ますます意味分からんよ。もういい保留しよう。
「なんでここにいんの」
そうだこれが聞きたかったんだ。
「鍵開いてたから」
きました理由になってない返答。もう会話諦めようかな。

私が会話を放棄したことにより静まり返る室内。これはこれで気まずい。伏せていた顔をちらりとあげると目が合った。うわ、こっち見てる。どうやら観察中というのは本気らしく、じーっとこちらを見てくる。危うく見つめてくるとか言いそうになった。
なんか、これは。き、気まずい。私はその場しのぎに口を開く。
「なんで部活辞めたの」
そう聞くと、ほんの一瞬だけ表情が変わった。小さい変化だったけど、私は気づいた。
「なんでだろーな」
答えになってないというか、答える気がないのか?それとも。それとも、もしかしてこいつ弱ってんのか。すごく分かりにくいけど。多分。

その時私は魔がさしたとしか思えない行動をとった。何故そんなことをしたのか、分からないけど。私は灰崎の頭を撫でていた。こんなこと、産まれて初めてしたんじゃないか。灰崎は、そんな私の行動に最初は驚いていたようだったが(私自身驚いてるのだから当然だ)、そのあと。

そのあと、ちいさく、今まで見たことないような顔で、分かりにくく笑った。


私の顔が熱くなってるなんて、絶対に気のせいだし胸がときめいたとかまさかそんな。有り得ないはずだったのに意味が分からない。





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