「はい」
その言葉と共に目の前に差し出された花。カーネーション。何故。私は黄色い頭を見上げて聞いた。
「母の日だから」
いやそれは知ってるけど。母の日って普通お母さんに花を贈る日じゃないのか。私の認識が甘かったのか。実はバレンタイン的なイベントだったっけ、母の日って。
「私、黄瀬のお母さんじゃないけど」
「知ってる」
そうか知ってたか。じゃあなんでカーネーションを私に渡してくるんだよ。別に特別花が好きなわけでもないのだが、コイツは何か勘違いでもしているのか?
「じゃあなんで私に渡すの」
「いや別に」
いや別にってなんだよ別にって。もっとなんかあるだろ。何も言いたくないときの常套句使ってんじゃねえよ黄瀬のくせに。
「なに、お母さんにいらないとでも言われたの」
そうだったら少しは気を使うけど。
「最初から母親に渡すつもりないスから」
ますます意味が分からん。なんかめんどくさくなってきた。もうどうでもいいや。黙って受け取っとけ。
「…ありがとう」
「ん」
ちらりと黄瀬の表情を窺う。相変わらず腹の立つイケメンだ。じゃなくて、表情。普通に無表情だった。かと思えば一瞬にして笑顔に変わる。黄瀬スマイル。
「じゃあ、バイバイ」
そう言うとくるりと背中を向けて去っていった。果たしてあの笑顔の意味は。なにより無表情の意味は。私は手元にあるアイツと同じ色のカーネーションを見て考えていた。とりあえず帰ったら花言葉でも調べよう。
カーネーション
花言葉は 「女性の愛」「感覚」「感動」「純粋な愛情」
(黄)「軽蔑」
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