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「多串くん」

ぼーっと屋根の上から空を見ながら、屋根の下に立ってた多串くんに声をかけた。多串くんは俺に気づいてなかったらしく、大袈裟に驚きながら返事を寄越した。

「なんすか。つーかなんでアンタそんなとこにいるんだよびっくりするじゃないっすか」
「うん。悪い」
「大して悪いと思ってねーな。別にいいんスけど」
「おう」

何の意図もなしに話し掛けたら、これでもかとばかりに意味のない会話になった。

「多串くん、金魚元気?」
「はあ?いや、元気なんじゃないっすか、多分」
「へー」

少しはなにか理由のある会話をしようと思って質問してみたが、やっぱりどうでもいい会話になってしまった。なんかすごく時間を無駄にしているような気分。

「てかなんでアンタ俺ん家が金魚飼ってたって知ってるんすか」
「あー、なんでだろう。なんでだっけ?」
「俺に聞くなよ。知らねっすよ」

というかむしろ意味のある会話なんてねえよという自棄を起こしたので多串くんとの会話を続けてみる、つもりだったのは俺の方だけだったらしく気がついたら屋根の下から多串くんがいなくなっていた。ほんのり裏切られた風味がした。

「なにやってるんだ、銀時」

後ろから聞き慣れすぎて飽きた声が。なにやってるんだって、これほどその質問に答えづらい状況も珍しいかもしれない。大体の場合は特になにもやってない、という返答になるわけだが。まあ今もなにもやってないと言えばなにもやってないんだけど。

「あー、多串くんに逃げられた」
「は?」

いっそ「息してる」とかいう何歳だお前みたいな返事をしてやろうかとも思ったが、その後のこいつとの会話が微妙に想定できてしまってうんざりして止めた。

「多串くんなら、お前に無視されたとさっき言っていたぞ」
「…まじか」

どうやら多串くんは裏切ったわけではなく俺が無視していたらしい。ぼーっとしすぎだろ。疑って悪かったな、多串くん。というか、今更だけどあいつの名前多串くんであってたっけ。まあでもそれをコイツに聞いたらぐちぐち言われそうだし、確か本人が多串くんで返事をしていたような気がするからあってるんだろう。たぶん。

「おい、」
「ヅラじゃない桂だ」
「おま、俺まだ言ってねえんだけど」
「先回りだ」
「それ半ば自分がヅラだって認めてんじゃねーか」
「ヅラじゃない桂だ」

うぜえ。

「で、なんだ」
「え。あー、なんだっけ」
「貴様、もうちょっとしっかり会話する努力をしろ」
「お前に言われたかねーよ」
「お前じゃない桂だ」
「うぜえ」

うぜえじゃない桂だ、と言われなかったのでホッとした。代わりになんかうだうだ言われているような気もするけど、どうでもいいので子守唄代わりにしようと思った。無理だった。

「おいヅラ、うるせーよ」

あたかも俺が言ったかのように俺の心情がそっくりそのまま言葉になっているが、俺じゃない。俺は寝る努力してた。
ヅラと一緒になって振り返る。

「貴様、いたのか」
「お前、いたのか」

不覚にもヅラとシンクロしてしまった。全ては高杉の影が薄いのが悪い。それを本人に伝える前に、既にソイツはキレていた。最近の若者はキレやすくていけない。あれ、なんかこの言葉デジャヴ。覚えてないけど。
俺がそんな感じで思考の道草をしていると、一通り文句を連ね終わって満足していたらしく、人間二人分くらい開けて俺の隣に座った。いや、なんでだよ。誰かコイツの心情を代弁してくれ。本当にそっくりそのまま代弁出来る奴がいたら恐怖でしかないし、コイツが素直に自分の心情を語り始めてもそれはそれで恐怖しかないが。

「ぐがっ」

まさに、あっと言う間に視界がぐるんと回って迷走していた。正確に言えばぐがっと言う間に。怪我は多分しなかったものの、しばらくは腰痛とかに悩みそうだった。

「…テメー、なにやってんだ?」

高杉に、呆れるとか馬鹿にするを通り越して心底不思議そうに聞かれたので屈辱という気持ちが沸き上がってきた。

「……俺も今それを考えてたとこ」

なんで俺、屋根から滑り落ちてんの。別に自殺しようと思ったわけではない。ただの事故だ。うっかり不注意、で済む程度の低い屋根の上だったことに一応感謝はしている。誰にって、もちろん自分の最低限の運の良さに。最低限すぎるだろと言いたい気分ではあった。

「馬鹿じゃねーの」

心底不思議そうにされるのが屈辱だからと言って、馬鹿にされたらされたで屈辱なわけで。ぶっ飛ばしてやろうかとも思ったが、そうできるだけの体の余裕がなかった。心の余裕はわりとあったんだけど。

そう言えばこういうときにうるさいヅラはどうしたんだと考えた瞬間、アイツの特徴的過ぎる声が聞こえた。寝てやがる。いつの間に寝たんだというか、俺、注意散漫すぎるかもしれねえ。

「おらよ」

目の前ににゅっと手が出現する。何事だと訝しむのはさすがにどうかと思った。なんというか、人として?あれ。俺って結局人なんだっけ。まあいいや。

「おう」

素直に手を借りて立ち上がった後、なんとなく蹴りをいれたら避けられた。蹴り返されたから避け返したら案の定腰に響いた。

いってえ…。




帰蝶さまへ
遅くなってしまって申し訳ないです。
攘夷戦争あたりとのリクエストでしたが攘夷戦争あたりの描写が全くありませんがしかし攘夷戦争あたりです。攘夷組と言っても坂本さん出てません。ごめんなさい方言書くの苦手です。聞くのは好きなんですけど…。
あ、多串くんに特に意味はないです。オリキャラではないはず。
リクエストありがとうございました!


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