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帰り道。私は耳と心を閉ざしていた。

「せんぱーい!」

私は何も聞こえない。何も聞こえない。「せんぱいっ!」何も聞こえないぞ、何も。「せんぱーい?どうかしたんですか?」知らない。知らないまじ何も知らない。後ろから追ってくる厄介な後輩とか知らない。「先輩、もしかしてまた困ってるんですか?」ああ、お前にな。「悩み事があるなら俺に相談してください!」後輩がしつこいです。だいたい無視されてるって分かれよ!気づいてくれよ頼むから。どっかいってください。「相手が誰であれ問答無用で潰しますから!」ピタリ。私は足を止めた。

「…エレン」
「はい困り事ですか悩み事ですか殺してきますか!」

勘弁しとくれ。困り事も悩み事もお前だ。とりあえず、

「殺すなよ、犯罪だから…」

あれ、殺しちゃいけない理由で犯罪だからでいいのかな。うん、もう何でもいいや。誰も死ななきゃ。あとエレン、微妙に不満そうにするんじゃない。どんなストレス抱えてるんだお前。

***

あれから数日後。ふと考えた。潰すとか殺すとかいう言葉に反応してしまっているが、逆にエレンがそういう物騒な単語を出せば構ってもらえると学習していたらどうしよう。よくない。非常によくない。ここは一つ、全力で無視とかした方がいいのではないだろうか。この間もなんだかんだ流れで一緒に帰ってしまったし。

というわけで華麗にスルー作戦を決行しているわけなのだが、これがもう非常に神経をすり減らす。なんてったって相手はあのエレン。相手にとって不足無しどころか強敵過ぎる。とにかくめげない。無視されているということに気付かない。いやもしこれで気づいているけどそれでもなお話しかけ続けているのだとしたらそれはそれですごい。というか怖い。
そもそも、一体何を思ってエレンは話しかけてきているのだろうか。前世でそこまでなつかれていた覚えはない。もしかしたら、アルミンもミカサも前世の記憶がないらしいことに関係があるのかもしれない。自分だけが一方的に色々と思い出があるというのは、うん、意外と辛い。だからエレンは私なのだろうか。

と、そこまで考えたところでそれまでマシンガンの如く喋り続けていたエレンが静かになっていることに気付いた。どうしたんだろう。ここまでくると逆に心配になる。チラリと横目で顔を窺うと、エレンは完璧な無表情だった。こわっ。

「……」

どうしよう。華麗にスルー作戦中な私だが、段々気まずくなってきた。あとなんで無表情なんですかエレンさん。話しかけるべきか私が迷っていると、先に口を開いたのは向こうだった。

「ごめんなさい…先輩、あの…」

そこまで言って口を閉ざすと、そのまま走り去ってしまった。ええと、なんで謝られたんだろう。覚えが有りすぎて分からない。いやでも、私もちょっとかわいそうなことしたかなあ。

***

あれから。エレンは私に近づかなくなり、私の周りは急激に静かになった。例えるなら花見の酔っぱらい客と冬の海くらい。うん、質の悪さは酔っぱらい並みだ。質の種類が違うけど。
酔っぱらいと、冬の海か。
もしかすると。私は寂しいのか?あいつが騒がないから?
そうだとしたら、なんて勝手な奴なんだ私。鬱陶しいって言っておきながら、居なくなった途端に手のひら返して寂しいなんて。

「あ」

噂をすれば。エレンが学校の、廊下の向こうから歩いてくるのが見えた。アルミン、ミカサの姿はなく、一人で歩いている。その姿をなんとなく廊下で立ち止まって眺めていた。話し掛けるつもりはない。さっき考えていたことがことなのでちょっと気まずい。あ、でも、向こうも気づいた。

「えっ…」

思わず出た声。目が合った瞬間あいつは回れ右をして去っていった。は?近づいてこなくなっただけではなく、私のことを避けていたらしい。意味分からない。私なんかしたか。
いやちょっと待て。これはもしかしたらあいつもかなり自分勝手なのではないだろうか?つきまとっておきながら自分の都合で先輩を避けるとか。つまり、おあいこだ。ならば容赦する必要なく自分のことは棚に上げていいわけだな。異論は認めなくもなくもない。つまり認めない。

***

「エレン」

放課後。部活がない日を狙って、帰ろうとするエレンを取っ捕まえた私は仁王立ちをしてエレンと向き合った。

「せ、先輩」

所在無さげに視線をさ迷わせたエレンが逃げ出す様子はないものの、隙あれば帰ってしまいたいという願望が隠しきれていない。いや隠す気がないのか。隙なんか与えるかよ。元兵士舐めんな。

「あんた、なんで私を避けてるの?」
「いや、あの、それは…」

口ごもるエレン。なんだよはっきり言えよ。なに?私の隠れファンが先輩に近づくなって脅してきたとか?
……無いな。さすがに。
万が一億が一可能性として仮に私の隠れファンがいたとしても、エレンがそれに屈するとはとても思えないし。いや隠れファンとか有り得ないけど。もしいるんなら隠れてないで出てこいよ。
あ、それがエレンなのか。最近は隠れてるというか、近づいてこないけど。うん、いい加減、

「いい加減はっきり言えよ」
「せんぱい…」

そう言って私を見つめる後輩。なんで私より背高いくせに上目遣いとかできんだよ。女子か。

「せんぱいは、俺のこと嫌いなんじゃないんですか…?」

はい?

「私いつそんなこと言った?」
「言ってはないですけど…。先輩俺のこと無視するから…」

近づかないほうがいいかなって思ったんですけど。

なんでこいつこんなに両極端なの?気の使いどころをなんでこんなに間違うの?

「あのねえ私は!あんたが急に近づいてこなくなるから!私がなにかしたのかと思ったんだけど!」

でも、そう言われてみればエレンを嫌いかどうかなんて考えたことあまりなかったかもしれない。やかましいなあとは思ってたけど。
「あのそれって、もしかして、せんぱい、俺のこと、好きだったりしてくれるんですか…?」
「はあ?」
「だって、寂しかったってことなんじゃないんですか?」
「そんなわけ、」

…ないこともないの、か。ふと想像した。エレンが私のことなんか完全に無視して、クラスの女の子とかにまとわりついている図を。…それは、嫌かも、しれない。
ああ、これは。

「先輩、俺は先輩のことが好きです」

このタイミングでこれを言ってくるあたりこいつは絶対にあざとい。近寄ってこなくなったのも、もしかしたら押してダメなら引いてみろ作戦だったのかもしれない。そんな後輩だとしても私は。

「…うん」
そう答えるので精一杯で。いつか、その内「私も」ぐらいは言えるようになろうと決心した。