標的4
空柩蓮華は風紀委員である。
しかしてその事実が周知しているかと問われれば、答えは否だ。
なぜなら、彼女は自分からそのことがらについて触れまわるような性格でもなかったし、加えて風紀委員などという組織に率先して関わろうとする酔狂な者は無いに等しいからだった。
蓮華自身が友人やクラスメイトなどからそのことについて聞かれることがあれば、素直に答えるのだろうが、自分から言うようなことは絶対にないだろうと思っている。できればあんまりばれたくないとも。
風紀委員やそのトップである雲雀についてまわる噂は、決して良いものばかりでは無い。その中には全くのウソばかりがあるわけではないため、それについて聞かれた場合の対応のことを考えると、正直な話少しばかり面倒だ。そこまでして話すほどのことでもないような気がしないでもない。
――などと考えながら蓮華が応接室に向かっていると、タイミング良く応接室から出てきた草壁と遭遇した。
「あれ? 草壁先輩、この時間から見回りですか。めずらしいですね、どうしたんですか?」
「あぁ……空柩か」
「あぁってなんですかー。わたしでは何かご不満ですか?」
ふざけてむぅっとしてみせる蓮華。それが分かっているから、草壁もふっと笑う。
「そういうわけではないんだが、なにぶんこの場所に空柩みたいな者がくることになれなくてな。非難しているわけではないから安心してほしい」
珍しいこともあるものだとおもってな、と続ける。
蓮華みたいな、とは自分みたいな少女がこんな場所に来ることを指しているのだろうか、と蓮華は推測した。たしかに、この委員会は男しかおらず、女といったら蓮華だけだ。武力を持っているように見えないひ弱な存在は、彼女だけ。
「そうですねー、わたしも不思議です」
風紀委員に所属している者も、蓮華に直接たずねることこそ無いが、どうして彼女のようなものが、と思っている者も多い。まして、雲雀が連れてきたというだけで、奇々怪々な事件だとひそかに騒いでいる者もいた。
草壁も直接的な表現をつかいこそしないが、奇怪には思っている、と。草壁と言う男がいつも第一に置いているのは、この並盛中学校の風紀委員長のことであるから、蓮華のことを不審にでも思っているのかもしれないと蓮華は勝手に納得する。
めずらしいと思うということは、雲雀がこういうことをすることはめったにないということで。ひばりと短くはない時間を過ごしてきた草壁に分からないことは、蓮華には分かるはずもない。
もしかしたら、この目の前にいる時代錯誤なリーゼントの草壁に、蓮華が雲雀について分かりあぐねていることを訊いてみれば、良いのかもしれない。雲雀が蓮華なんかを毎度のようにここに呼びつけて、いったいなにを考えているのかが分かるかもしれない。……でも、そこまで深く雲雀の気持ちにつっこもうという考えは、今までの蓮華だったらもたなかっただろう。並盛のトップであろうと、同じ委員会であろうと、それは所詮他人でしかなかったから。
だけど、今は。
そんな雲雀に、ほんの少しの興味を持っていたり、する。
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