標的10

 


 転校生が来るんだってよ、というウワサを聞きながら。もやりと何かが渦を巻くような予感めいたものを感じて蓮華は京子の方を向いた。
 いつでも楽しそうに、にこにこと笑っている彼女だが、今日はいつにも増して明るい雰囲気を醸し出している。蓮華と京子の様子は表面的には同じでも、その実根本的なところでとても対照的であった。


「ね? どんな人が来るのかな」

「さあ……、どうだろう。わたしは京子ちゃんや花ちゃんみたいな、可愛い女の子を希望するよ」

「……あんたねぇ」

「あっ、先生が来たみたいだよ」


 あきれ顔で蓮華のことを見る花の言葉を遮り、教師を入ってきたのを確認した。時刻はまだホームルームの始まる前であったために、ざわついていた教室内も一瞬にして落ち着きを取り戻していく。担任と一緒に、もう一人誰かが入って来たようだがおそらくはそれが転校生という見方でいいのだろう。
 周りのクラスメイトのように、浮き上がらない心を持て余しながら、蓮華は不思議に思う。いつもならもう少しくらい、クラスの雰囲気に合わせて自分の心も盛り上がりそうなものなのに、今日に限ってその気が起こらないのはなぜだろう。――と、その答えも今に自問自答できるものになるのだが。生徒たちがガタガタと席に着く音が消えたのを確かめると、担任が口を開いた。


「イタリアに留学していた、転校生の獄寺隼人君だ」


 目線を上げた先に現れたその姿に蓮華は少しばかりの驚きを露わにした。もっとも現れた、という表現は多少正しくなく『彼』は正式に扉から入って来たわけであるが。銀色のさらりとした髪に、緑がかった瞳。ガンとこちらを見据えて来る瞳に浮かんでいるのは嫌悪感だろうか。その、嫌悪感は。


 ――わたしに対する、ものじゃあない。


 どうやら、彼の目的は蓮華ではないらしい。それは蓮華のことを捉えた瞳が、彼女と交錯した後にすぐに逸らされたことからも明らかであった。


「……何も、そんなに憎らし気にみることはないと思うんだけどなぁ」


 平生なら聞き咎められる一人ごとも、今だけは彼の容姿で盛り上がる女子の声のお陰で言いたい放題だ。実に快適――というわけでなく、少々騒ぎが過ぎる気がしないでもない。注目の的である獄寺は、いわゆる黄色い声と呼ばれる種類のものを鬱陶しく思っているようだ。


 ――ジーザス、どうしてこんなことに。






 数時間後に蓮華が何気なく窓の外に目をやると、獄寺が綱吉に向けて爆弾を投げている姿を見つけてしまった。爆弾から命からがら逃げる綱吉に、さらに追いすがる獄寺。そうこうしている内にいつか見た、赤ん坊の姿を発見してしまって蓮華は即効で今の場面を脳内から消去することを決めた。獄寺はただの不良少年じゃなかったのか。


 ――冗談じゃないよね。あれもこれも、あの人絡み。真偽のほどは定かじゃないけど、あんな物騒なものを持っている人相手にわたしはなんて馬鹿なことをしてしまったんだろう。


 


[ 11/16 ]

[*←] [→#]


[戻る]
[top]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -