貴方を横抱きして駆ける夢を見るとかね!




自分の背が低い所が嫌いだった。
俺自身、背が低かろうと高かろうと、そんなんどうでもいい人間のつもり。要は志。生き方だ。なんて考える人種な訳。
なんだが、俺の惚れた奴が背が高いから気になってしまうのだ。つまり俺の考えなんてその程度。複雑な話だ。



「あー…なんだっつーんだよ本当さ……」

本日何度目とも知れず、鬼柳はそう呟いて鏡を覗く。後ろから見ている俺からは、鏡の中には鬼柳の顔が写ったのが分かった。しかし普段通りではない。
鬼柳の顔には立派な青痣が出来ていた。日頃、元気な時とはギャップの酷い寝起き。朝ボーッとしていたその時に鬼柳は、床の段差に足を引っ掛けて転んでごみ箱を倒してそのままごみ箱に体を乗り上げ壁に顔から激突して青痣が完成させた。それから横にあった棚の上に置いてある本が落ちてたんこぶが完成。

そうして現在の鬼柳だ。鬼柳は痛そうな青痣はあまり痛くはないと言う。ただ跡が残らないか心配らしい。左側の目元から口元まで大きく出来たその痣は、確かに残らないかと心配になる。
折角綺麗な顔してんのに。
後ろから鏡を眺めていたら、鏡に写った鬼柳と目が合う。鬼柳は少しだけ首を傾げて、しかしすぐに俺にニッコリと微笑んで見せた。
俺はそのまま座っていたソファーに寝そべる。なんだよクロウー、なんて非難する声が聞こえるのを無視して瞼を閉じた。

くそ可愛いなおい。笑うとか卑怯だろ。ああもうなにかんがえてんだよおれは!
ぶつぶつと自分のデッキのカードの効果を思い出して一枚一枚読み上げる。雑念を取り払う為に使ってごめんな皆。

鬼柳が女なら結果オーライなんだ。よりにもよって好きになったのが男だなんて。でも鬼柳はそこいらの女より断然可愛く見えるんだよ。恋は盲目、ってな。笑えない。

「クロウ、なあクロウ」

「………なんだよ」

ぐいぐいと服を引かれ、仕方なく体を起こす。ソファーの横に座り込む鬼柳に見上げられ、珍しい構図に吃驚した。それからすぐに見上げる鬼柳にときめく。可愛いな、馬鹿。

「なあこれ跡残るかな」

「あ、えー……ああ、ああ跡な、跡……いや、大丈夫だろ?」

「…本当か?ならいいんだけど」

つかクロウ大丈夫か、なんて鬼柳は苦笑する。「眠いなら話し掛けてごめんな」と鬼柳は立ち上がった。随分と位置の高くなった鬼柳の顔を見上げ、肩を落とす。




翌日も鬼柳の顔に痣は健在だった。ソファーに寝ながら端の欠けた手鏡で鬼柳は顔を見ている。
それを見て俺はまずナルシストか、なんて思った。顔を気にし過ぎだ。だが同時にあの残り続ける鬼柳を見るのは嫌だと思う。にしても痣の理由が悲しくて仕方ない。ただの不注意だぞ。

「あ、クロウ」

「よう」

「遊星、ジャンク拾いに行ったけど」

「ふーん、早いのな」

鬼柳の寝るソファーの反対側にある椅子に座る。鬼柳は「んー」と肯定なんだか唸りなんだかよくわからない声を上げた。手鏡を腹に置き、鬼柳は天井を見上げる。

「ジャックは部屋でデッキ調節だって。邪魔するなってよ」

「部屋に入るなって?」

「うん」

眠そうに鬼柳は言う。立ち上がり、鬼柳の横にまで歩いた。寝ている鬼柳を見下ろす。
こういったハンデがないと俺は鬼柳を見上げなくてはならない。悔しい。
鬼柳は天井から俺に目を移し、何気なく笑んで見せる。可愛いな、とぐるりと顔を背けた。
鬼柳は「なんだよー」と顔を背ける事を咎める。その声色はふざけているような声色だったのだが、しかしすぐに「クロウ」と弱々しい声で呼ばれた。
なんだよ、と渋って鬼柳を見ると泣きそうな顔で俺を見上げている。吃驚して、言葉を無くした。何故泣きそうなんだ?

「クロウは……やっぱこの跡、気持ち悪いのか?」

「え?」

「だから笑っても笑い返してくれないのか?それどころか顔反らすし…確かにこれ酷いけど…いや、ってか俺自体嫌いなのか?」

「鬼柳?」

鬼柳はとうとうボロボロと涙を流してしまう。慌ててわたわたと意味なく動いた手を、泣きながら起き上がる鬼柳の肩に添えた。鬼柳は悲しそうにしながら俺を見上げる。

「あんな露骨に顔反らさなくったっていいじゃんか…」

「いや、鬼柳?」

何を勘違いしてるんだ?やはりボロボロと泣いてしまう鬼柳の目元を拭う。鬼柳はとうとう声を上げて泣き出した。
そんなにショックだったのか?ただ俺はあのまま鬼柳を見ていたら赤面必至で、やましい事考えてしまいそうだったから。そんな弁解は鬼柳には出来ないのだが。

鬼柳の肩を引き、鬼柳の顔についた痣を撫でる。痛まないように撫でると、鬼柳は吃驚したように俺を見た。

「…確かに酷いけどな」

「っひぐ……っ」

もう嗚咽まで出ている鬼柳。笑い掛けてやり、頭を撫でる。
普段より随分低い位置にいる鬼柳の額に自分の額を当てた。子供達に励ますさいするそれのようにして、鬼柳の頭をポンポンと優しく撫でる。

「……鬼柳の綺麗な顔に跡が付くのが酷い、ってだけだ。別に気持ち悪くは…ないから」

「……ク、ロウ?」

「……あー!何今の俺…!?寒っ!!無しな、無し。今の無し!!」

ぶんぶん手を振り鬼柳から離れる。今の俺なんだ、気持ち悪かったな。つか何やんわり告白してんだ!
恥ずかしくなって来て鬼柳と正反対の方向を見る。するとソファーがぎしりと鳴った。鬼柳が立ち上がったのかと振り返るが、振り返る前に後ろから抱き着かれる。
身長の高い鬼柳に包み込まれるようなそれは、体が上手く動かない。情けなくて泣ける。

「…クロウ、マジ好き。ありがとう」

「……」

「そーゆーさ、クロウの励まし屋な所、愛してるよ」

ぎゅー、と抱きしめられ、不服加減に泣けそうだ。身長差から包み込むみたいに抱きしめられるし、どう考えてもこれ友人的な意味での好き、だし。
確かに告白を後悔はしたが多少期待してしまった俺。畜生情けない。

ちゅ、なんて可愛いらしい俺で髪にキスされる。頭のてっぺん辺りでされるそれは鬼柳の癖みたいなものだ。よくやられる。
しかし俺は鬼柳にした事がない。

「……俺も愛してるよ、鬼柳」

「マジ?ありがとうなークロウ!」

もし跡消えなかったらクロウが娶ってくれよ!なんて茶化す鬼柳。本当に娶れるんなら跡が一生消えなきゃいい。なんて考えたりしたよ。ごめんな鬼柳。



***



松茸御飯様よりリクエスト、本編沿いでクロ京です!

クロウ→←鬼柳な感じですね。
鬼柳もクロウ大好きなんですが、「まさかクロウが俺なんかを好きな筈ないよな」と慎重に事を運んだせいで擦れ違い。
そして鬼柳は低血圧そうだな、なんて。

では、リクエストありがとうございました!







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