腐乱する恋心と赤い水溜まり



※性的描写有。


鬼柳が帰って来ない。遊星はそう言って少し落ち着かない様子で、工具を蹴散らしながら歩いている。あの遊星が工具を蹴散らす、なんて相当取り見出しているな。
横目で見て、「まだ夕方だ」と俺は呆れた溜息混じりに言う。同様に見ていたクロウも頷いた。

「んな心配しなくていいだろ」

「いやだが…昼前に手合わせする、と鬼柳から約束してきたんだ……」

「……あー、まあ、アイツが約束破るのは珍しいかもな」

鬼柳は地区の隅にある建物に行っていた。この間その場で隣地区抑圧の為に滞在した際、どうやら落とし物をしたらしい。それがどうでもいい物なら、勿論わざわざ取りには行かないのだが、だがそれがどうも大切な物だと言う。それが何かを言わず、鬼柳は一人で向かったのだ。
制圧し終えた場所な事と、そうも遠くはない事から一人で向かわせたが、帰りの遅い現状、少しばかりその事を後悔して来た。ただ遅いのなら、寄り道でもしているのだろうけど、だが約束をしておきながら帰りが遅いとは、少し心配だ。

「…探して来る」

がたん。痺れを切らして外に向かう遊星。待てよ、とクロウは遊星の肩を掴んだ。
だが、と遊星はクロウを見ると、少し考えたよう黙ってから息を吐く。冷静にならなくては、という顔だ。

「…俺が行こう。二人は待って居ろ」

座っていたソファから立ち上がり、遊星の机にある通信機を一つ手に取った。確か、まだ会話は出来ない仕様だが、位置の確認くらいは出来るまで作れた、とこの間遊星が言っていた物だ。クロウはそれを見ると、じゃあ頼む、とばかりに頷く。そして遊星を落ち着かせるようにソファに座らせた。

「……何かあったらその通信機の通信ボタン押してくれ。会話は出来ないが、発信機としては機能する」

「…ああ」

遊星に言われ、掌より小さく、薄いプラスチックのカバーが着いたその機械をポケットに突っ込んだ。

「もし鬼柳が帰って来たら、逆にこっちからそっちに連絡入れるからな」

「しゃあしゃあと帰って来たら、頭を殴っておけ」

了解、とクロウは笑う。
そうして外に出た。あの場所には数十分で着くだろう。




途中で、この間は何も無かった道に建物が崩れた後があった為、少しばかり遠回りをした。それ以外はなんら支障なく建物に着く。外見は至って依然として建つそれだが、だが外観だけでは中に鬼柳が居るかすら分からない。
腕を組んで暫く眺め、いつでも対応出来るよう左手にあの通信機を握って建物の中に入った。

建物の中は埃臭く、ガラスの無い窓から、窓枠の落ちている床へと日が差し込んでいる。まさしく廃墟と言える場所だ。
確か滞在した時は、2階の物置部屋だったらしい場所を使ったのだったのか。窓が上部に数個あり、比較的荒れて居なかった為にそこを使った。確かシーツなんかは無かったが、ベッドもあった筈だ。
落とし物をしたのなら、居るとするとそこが1番有力か。もし建物内に居なかったら、建物の辺りを散策してから帰ろう。

一応音を立てずに階段を上り、薄汚れた廊下を歩いた。1番奥の部屋であるそこは、他の部屋と同様に扉がない。壁伝いに歩き、その部屋に近寄る。
そうして少し近付いた辺りで、話し声が聞こえた。内容はよく聞こえないが、だがどこか荒いその言葉尻に、警戒して部屋の手前まで向かう。

「あー?なんか弱っちまったな。さっきまでの威勢はどーしたよ」

「なんか喋れないみたいだな。おい、何睨んでんだよ」

なんだかあまり和やかでない会話が聞こえるな。会話が一段落して、ぼすっと何かを殴る音がした。同時に弱々しい悲鳴が聞こえ、握っていた通信機をポケットに突っ込むと、待たずにその場から飛び出す。

床を蹴った音に反応してか、室内に居た3人がこちらを振り返った。身長が高く細い男と、中肉中背の男、それから少し太めの男。その3人の奥に、ベッドに寝かされている鬼柳が居た。手首には手錠が掛けられており、ベッドの錆び付いた柵に通したそれはどうやら自由を奪っているようだ。その鬼柳を一瞥。緩く開いたその目と目が合い、安心したように瞼を閉じるのを見て、正面の中肉中背の男に殴り掛かった。





「ぁー……さすがジャック…」

全員を殴り倒すのには数分で済んだ。気を失った様子の3人を見下ろす。完璧に起きないだろう、と判断して鬼柳の方を向いた。
眠そうにしながら、だが口端から血を流す鬼柳を見下ろす。顔に青痣が付いていた。折角の綺麗な顔が、酷い有様だ。
もう一度殴ってやろうか、と3人を見下ろし、しかし赤くなっている鬼柳の手首を優先しようと、殴るのは止めて中肉中背の男が腰に掛けていた鍵を拾い上げる。
沢山鍵が付いていたが、手錠の鍵を見付けて手錠を解いた。




背負った鬼柳は、想像より少しばかり重い。脱力しているのだろう。

「あー、ごめんな…ジャック…」

「…何を謝っているんだ」

鬼柳はしきりに耳元で謝る。泣きそうなその声は、聞いていて胸が痛い。俺は結局、鬼柳に惹かれているのかもしれん。本人には決して言わないが。

「…あそこで忘れ物は見付けたんだ…だけど、つけられてたらしくてさ」

多分前に抑圧した地区の奴だと思う。ぶつぶつと言い、鬼柳はぎゅうと俺の背中に擦り寄った。意味もなく鬼柳を振り返り、背負い直す。

「…別に痛くはなかったんだけどさ」

嘘をつくな。痣の残る顔を思い出す。痛くない筈がないだろう。

「…というより、なんかすっごい…悲しくてさ。…殴られてるのに、ジャック達の顔が浮かんで」

強く抱き着く腕は細い。指先は必死に俺の服を掴んでいる。少しだけ後ろを向き、手は自由に動かないので顳の辺りで鬼柳の頭を撫でた。鬼柳は恥ずかしそうに笑う。

「……ジャックが来てくれて、すっげー嬉しかった」

泣いてしまったのか、息を乱して鬼柳は言った。その様子に足を止める。もうあと数分歩けば、遊星達の所に着くのだが。だが、少し惜しい。

「……なあジャック」

「…なんだ?」

「……まだちょっとだけ、厄介事頼んで…いいか?」

「……厄介事?……構わんが」

指が痛むのではないかというくらいに俺の服を握り、鬼柳はぐりぐりと俺の背中に頭をなすり付ける。どうしたのだろうかと鬼柳を見て、建物の陰に入った。

返事のない鬼柳をすとんと地面に下ろす。鬼柳はそのままその場に座り込んだ。足腰が立たない程弱ったのか?先程はまだ意識が朦朧としていたようだったから背負っていたが。

様子を見る為に屈んだ。すると、鬼柳に抱き着かれる。
一瞬の事に息をするのも忘れ、上がった両腕は意味もなく宙に浮いた。首元に額を埋める鬼柳は、やはりまだ少し荒い息で呼吸をしている。

「ジャック、俺…変なんだ」

「……鬼柳?」

「よくわかんないけど、俺」

鬼柳の肩が震える。病的なそれに不安になった。
肩口に引っ付く鬼柳を引きはがして顔を覗き込む。まるで風邪をひいたかのように顔は赤い。

「……さっきの奴らに…なんか飲まされて…でも、ただの嫌がらせだと思ったんだ……なのになんか変なんだ…ジャック…」

鬼柳はボロボロと涙を流す。表情をぐしゃりと乱して泣く鬼柳は、まるで子供のようだ。嗚咽も堪えずに泣き、頻りに流す涙を掌で拭っている。

「…飲まされた?」

「…っ…変な薬。…よくわかんない、けど」

嗚咽混じりに言い、鬼柳は再び俺に抱き着く。こんなに精神状態を狂わせるような薬があるのだろうか。とりあえず俺は聞いた事がない。ぽんぽんと子供をあやすように背中を撫でる。
すると鬼柳は俺の耳元に口を寄せた。嗚咽で荒い息の中、必死に言う。

「俺ッ……ジャックに抱かれたい………変なんだ…ジャック…」

「だかっ…、なっ…?」

聞き間違いかと我が耳を疑う。また鬼柳を自分の体から引きはがした。情けないくらい泣く鬼柳の顔を真剣に見つめる。
普段生真面目そうに凛々しく見せる表情はなく、ただどうしようもないように泣いていた。
こちらまで泣きそうになる。

「……なあ、抱いてくれないか…?……も、俺ッ……」

切なそうに自分の胸元の服を両手で握り、鬼柳は横にある壁に寄り掛かった。ずるずるとそのまま落ちる体を支える。

「…っ、ジャック……」

辛そうな。けれど甘えるような声色。
事実俺はまだ立派な人間ではない。我慢は出来んし、それに本能に弱い。
溜息に近い息を吐き下し、自分を叱咤する。けれど本能の声はいつも大きいのだ。情けない。荒い息の鬼柳を見て、少し思案して、それから横抱きで抱き上げた。

「……少し揺れるぞ」

言うと、鬼柳は震える肩を叱咤するように辛そうな表情で俺の服に指を伸ばす。ごめんジャック、と呟く鬼柳。謝るのは俺の方だ。一時の事故に自分の思いをぶつけようとしている。

外観が殆ど崩れているその建物の中に入った。部屋数が多く、手前の部屋は扉も健在だ。その扉を蹴り開ける。
部屋の中には棚と机があった。あとは何もない。が、床には絨毯が敷いてある。埃っぽいが、そこに鬼柳を座らせた。
まだ壊れずにある扉を閉めに行き、鬼柳を見ると鬼柳はうずくまっている。
近寄ると、更にうずくまった。頭を撫でる。

「ごめんな…ごめんな……っ」

「……謝るな、泣くな」

縮こまる体を抱きしめる。
多分、鬼柳は所謂、催淫薬とやらを盛られたのだろう。名前の通りに性欲を掻き立てる薬だ。一般的に男が女に、女が男に使う薬だが……もしあのままアイツらが事を進めていたら。
……臓が煮え繰り返りそうだ。

薬のせいでという項目で鬼柳と体を重ねるのは、正直嫌だった。だが体面を気にしてしまう俺はきっと、今回の事がなかったのなら一生鬼柳は抱けないだろう。情けない話だ。

服を脱がそうと鬼柳の服に手を掛ける。鬼柳はただ申し訳なさそうにしていた。









「ッ……ぁ、ああっ…ジャックっ…ジャック……!!」

愛おし気に名前を呼ばれる。壁に背を着けた鬼柳の顔の横に片手を付いて、もう片手で押し上げている鬼柳の片足を更に押した。まだ流している涙の先には、虚に滲む鬼柳の瞳が見える。
必死に俺の上服を掴み、鬼柳は喘いだ。俺が動くたびに肩は跳ねる。もう5回は吐精したのだが、鬼柳のソレはまだ固さを失っていない。
手で抑えていた片足は肩に担ぎ、そのまま空いた手で白濁が飛び散った鬼柳の腹部と、青痣の残る頬を優しく撫でる。

「ジャック…、ああ…ヤだ…イくっ……ひ、ぁあ……!!!」

びくん。大きく体を震わせ、鬼柳は強く瞼を閉じてまた達した。大分透明に近く、量の少なくなって来た精液は、だらりと勢いなく鬼柳の腹に掛かる。
それでもまた固さを持ち始める鬼柳のソレ。額にキスして、鬼柳、と名前を呼んだ。
怯えているように鬼柳は瞼を開ける。射精後の余韻でがたがたと体を震わせる鬼柳の頭を撫でた。

「……ジャック、足り…ないっ…んだ…ジャック………ジャック…ッ…!」

必死に伸びる掌。俺の後頭部を捕らえると、ぐいと引き寄せて俺の鼻先と鬼柳の鼻先が掠れる程に寄った。そのまま切なそうに自ら腰を揺する。その姿に、もう自分の体面も忘れて鬼柳を引き寄せて、そのまま抱きしめ、座位の形にして激しく腰を揺さ振った。

「あっ、ぅぁああっ、あ…!!ジャッ……ク、っじゃ……く…これ、いや、だ…変に…なる…っ!」

「…安心しろ、もう…変だっ…」

嫌々と頭を振る鬼柳。しかし痛いくらいに俺の体に縋り付く。俺も鬼柳の細い体を抱き寄せた。このまま一つになればいい。そうすれば幸せなのに。

「あっあ、あ、あ…も、…イく…またっ、…じゃ…っく……ぁああ……!!」

「っ…!」

ぎゅう。抱きしめられ、俺も同時に達した。中に出すと、その度に鬼柳は体を震わせる。
達したと言うのにまだ断続で声を上げる鬼柳。愛しくて、堪えきれずに掻き抱く。止められず、細く白い首筋に噛み付いた。赤い痕を残して離れる。そのまま息の荒い鬼柳の唇を奪った。

呼吸をしたがって残り少ない体力で抵抗する鬼柳の体を、壁に押し付ける。歯列をなぞり、口内で小さく縮こまる舌を絡め取った。無抵抗なそれを翻弄する。弱々しく胸元を叩かれ、仕方なく唇を離した。
唇が再び重なりそうな程近い位置で鬼柳の顔を伺う。鬼柳はやはり虚な表情をしている。

「…ジャッ、ク……俺、な」

やっと性欲が収まったのか、鬼柳は息を乱しながら、だが疲れたように壁に体を預けた。
壁に手を着き、鬼柳の胎内に収まるソレを引き抜く。ごぽりと泡立った白濁が床に落ちた。鬼柳は眉間にシワを寄せ、体を震わせる。

「っ……こんな時に、言う事じゃないんだ……でも、逆にいつ言えばいいのかわからないから…言うけど」

「……鬼柳?」

肩で息をして、鬼柳は脱力した首を上げて天井を見た。恥ずかそうに笑い、随分と前に脱ぎ去った自分の服を指差す。

「その服の…ポケット、の中…取りに行った忘れ物、入ってるんだ…見て、くれないか?」

言われ、首を傾げて服を手に取った。確かにポケットには小さい膨らみが出来ている。開けて、中の物を掌に置いた。
ごろりと掌に落ちたのは、シンプルなシルバーのペンダントヘッド。見覚えがある気がする。だが鬼柳が着けている姿は見た事はない。
ああ確かこれは。

「……俺のだな」

昔好んで着けていた物だ。だが端が欠けてしまったから捨てた筈だ。他にも似たようなペンダントヘッドはあったから。

「……随分前に拾ったんだ、俺…嬉しくて、宝物にした。変だろ?無いって気付いて必死に探してさ……」

乾いた笑いを浮かべ、鬼柳は泣きそうにしながら壁に後頭部を擦り寄せる。観念したように鬼柳は口を開いた。

「俺、ジャックが好きなんだ」

「……」

「すっげー好き。ずっと抱かれたくて…仕方なくて……一日中ジャックの事考えたりとか。はは…俺、馬鹿みたいだな」

ごめん。仕舞いにそう呟き、鬼柳は体を縮こまらせた。表情が伺えず、少し戸惑ってから、ペンダントヘッドを服の上に置く。また泣いているのか、震える体を抱きしめた。

「…俺は、薬で抱かれたがるお前を見て、本能に従った」

鬼柳の体は変わらず震える。微かに嗚咽が聞こえた。
さらさらと音の鳴る綺麗な髪を撫でて、首筋に鼻先を埋める。

「ずっと抱きたかった」

え。と鬼柳は顔を上げた。情けなく涙で乱れた顔は、しかしやはり綺麗。愛らしくて、額にキスする。呆然てする鬼柳に笑い掛けた。丁重に耳元で、「愛している」と言えば、鬼柳は更に泣いてしまう。ずっと背中を撫でて、あやしてやった。





外はすっかり夜だ。ぞんざいな後始末を終えた鬼柳を背負い、俺は遊星とクロウの元へ向かう。ポケットの中にすっかり居座り続けた通信機に触れ、なんと言い訳をするか悩む。

クロウには本当の事を言っても大丈夫だろう。が、遊星にはなんと言うか。すやすやと暢気に眠る鬼柳を見て、変に考えるのは止めるかと歩を進めた。



***



満足ジャ京で裏、との事でこんな感じです。長いですね!とてっっっても楽しかったです←

何気に遊星→鬼柳だったりします。この関係がこれ公式(違)なので外せない感がありまして。やらかしました。

にしてもジャ京いいですね!
カーリーたんいなかったら自分の中でルド鬼に並ぶくらい好きですよ。というかジャック単品でかなり好きです(^ω^)

この作品、何回“ジャック”ってうったかしら…いっぱいうった記憶がww

では、リクエストありがとうございました!







小説置場へ
サイトトップへ


 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -