エクジスタンシャリズム




※満足町に留まらなかった鬼柳さんの話



「鬼柳さん、昼食出来ましたよ」

「ああ、ニコ、悪いな」

「いいえ」

読んでいたアルバイト候補先を纏めた小さいノートを畳み、手伝うつもりで椅子から立ち上がる。キッチンからは美味しそうな香りがしていて、そのキッチンに向かうとニコが作った物を皿に移していた。

「テーブルに運ぶか?」

「ああ、鬼柳さんは座ってて下さい。……ウェスト!手伝ってって言ったでしょう!」

皿に移し終え、ニコはキッチンから2階に続く階段に向かってそう言う。「今ちょっと無理ー!」と焦ったように言うウェストの声が返り、ニコは咎めようと口を開き、それから諦めたように溜息を吐いた。

「……じゃあ、鬼柳さん、お願いします…」

すいません、なんてショボンとするニコの頭を撫でてから、キッチンにある皿をテーブルに運んだ。
振り返ると、新しい皿を取り出してまた料理を盛っているニコが、申し訳なさそうに頭を下げる。それを見て、キッチンに向かった。

「……あのなニコ、俺はお前達のご主人様じゃない。同居人だ」

「でも、私もウェストも…鬼柳さんに養って貰ってる…」

「…あのなニコ。俺は、女の子の手料理なんか食べた事なかったんだ」

言うと、ニコは目を丸くして俺を見上げる。頭を撫でて、それから盛り終えた皿を手に取った。

「………けど、今の俺はニコの美味い手料理が食える。これは何にも変えられない、そうだろ?」

「…鬼柳さん」

「……確かにアルバイトはキツい。戸籍問わず、なんてアルバイトはロクなアルバイトじゃないからな」

テーブルに皿を置き、椅子に座る。テーブルに置いたままだったノートをパラパラと開く。
名前と住所、連絡先。赤い線が引いてある項目はダメだった所。殆どのページが真っ赤で、なんかもう、笑えない。

「でも俺は…お前らが居てくれて嬉しい。むしろ稼ぎが少なくて、情けないな」

苦笑してニコを見上げる。ニコは同様に椅子に座り、それから妙に縮こまって顔を赤くして頷いた。その様子に首を傾げて見せると、ニコはごまかすように椅子から立ち上がる。忙しい子だ。

「ウェスト!もう来なさい!」

「はーい!今行く!」

がたがた、騒がしい音を立ててウェストが下りて来た。

クラッシュタウンを後にして一ヶ月が経つ。ニコとウェストは、俺と一緒に同居している。
またこの場所に帰って来た…と言っていいのか分からないが、この遊星もクロウもジャックもいる場所に俺達は住んでいた。
まだ父親との死別に心を痛ませる時があるだろう二人は、しかし明るく努めている。そんな強い生き様に、まるで血を分けた妹と弟のように可愛く感じるのだ。養うのも苦ではない。



「あのね、この後クロウの兄ちゃん来るんだ!」

「クロウが?」

「またクロウさんにデュエルのやり方教えてもらうの?」

「ううん!今日はデュエルして貰う約束してるんだ!」

昼食を食べるウェストは、そう言って元気にパンを食べる。クロウは昔から面倒見のいい奴で、そう、子供が好きだった。
ウェストは勿論例外でなく、クロウはよくウェストに構ってくれる。デッキの作り方や、デュエルのやり方なんかをほぼ毎日教えてくれているみたいだ。

半ば興奮気味に昼食を食べるウェストは、「ご馳走様でした!」と笑顔で言った。それを見てニコは「全くもう…」と呆れ半分微笑み半分で言う。気持ちはよく分かった。大変微笑ましい。

「俺、絶対強いデュエリストになるんだ!それで、」

「いつか鬼柳さんにもデュエルをしてもらう、でしょ?」

「うん!」

ウェストはそう元気に返事をして、部屋へと帰って行った。大方、デッキを組んでいた途中なんだろう。逸るその気持ちはなんだかよく分かる。
ウェストは俺とデュエルをしたがるが、上達したウェストは俺とデュエルして残念な気持ちにならないだろうか。俺に憧れていたが、だが俺はそこまで強くはない。遊星の方がよっぽど強い。二回も負けたんだ。





「よう、鬼柳」

昼食を終えて暫くすると、クロウが来た。ああ、と返事をしてウェストを呼ぶ。がったんどったんと大きな音を立ててウェストが出て来た。あはは、と苦笑するクロウ。俺も思わず苦笑する。

「んじゃ、デュエルすっか」

「うん!」

「ああそうだ鬼柳」

「ん?」

「ジャックと遊星もすぐ来るぜ。新築拝見だとよ」

言って、クロウはウェストに連れられて2階へと向かって行った。新築、とは引っ掛かる言い回しだ。比較的綺麗で大きい廃屋を改築しただけの作りなのに。と考えると同時に、確かに二人共まだ家には来ていないな、と思った。


数十分とせずに、二人は家を訪問する。対応したニコが、来ましたよ、と俺を呼んだ。
リビングを見てみると、確かにテーブルにはジャックと遊星が居る。手ぶらなのを確認して、「新築拝見じゃないのかよ」と苦笑した。お祝いの品くらい持って来い、とは言わないが。

「ああ、急いでいてな。忘れた」

遊星はそう言い、壁や天井や床を見回す。あまり見て欲しくはないな、修復が荒かったりするから。

ニコが珈琲を入れて、テーブルに置く。ありがとうと言う遊星と、すまんなと言うジャックに微笑んで頭を下げたニコは、話の邪魔になると判断したのかそのまま部屋に帰って行った。
珈琲を飲んで、ジャックが口を開く。

「いい子だな。珈琲が美味い」

「…基準そこか?」

もう一度珈琲を飲んで、ジャックは機嫌良さそうにうんうんと頷いた。珈琲、好きなんだろうか。淋しいが、ジャックの事はあまり知らない。

「鬼柳」

「…なんだ?遊星」

真面目に俺を見上げる遊星。いつまでも立ってるのもあれだな、と俺も椅子に座る。遊星はそれを確認してから、俺に笑い掛けた。

「幸せそうで、良かった」

「……遊星」

「忙しいし、俺はあまり頻繁に会いには来れない。だけど、安心した」

無理に俺をあの町から連れ出そうとした遊星。拒絶した俺。あの時の俺は、周りなんか見えてなかったと思う。自虐的で、悲壮に酔っていた。
だがあの時もしも遊星が来なかったら。まだあの場所で死神として生きていたかもしれない。それは、言葉にするのは簡単だが、今の生活をしながら思うのは酷い話に思える。今は、幸せだ。

「今日もあまり長居は出来ないんだ…だから、また時間がある時には必ず来る」

「…あ、いや、遊星、じゃあ次は俺がお前ん所行く…から。な?」

言うと、遊星は驚いたようにして、すぐに嬉しそうに笑って「そうか」と応える。俺も「ああ」と返した。まだ頬の筋肉は笑顔に慣れていないけど、慣れて行きたいと思う。

此処は俺の、満足出来る居場所だから。



***



由良様よりリクエスト、遊星×長髪鬼柳前提、ニコ+ウェスト+満足同盟という事で、こんな感じです!
ジャック終盤かなりの空気ですね。
この後

「いちゃつくな」

とキレます←

ニコは料理上手で鬼柳さんに片思い、ウェストはクロウにデュエルを教えて貰っててやはり鬼柳さんは尊敬。そんな満足ハウスに…住んで欲しい…という願望丸出しな作品です!←←

では、リクエストありがとうございました!







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