不規則な凹凸
※鬼柳さん病んでます
少しグロい
ざくり。横に一線伸びる赤い痕。血がぷくりと浮き出て、そのまま手首から床に落ちる。
何してんだっけ。麻痺って来た頭で首を傾げて、気にせずぐりぐりと先の尖った厚みのあるアルミ板でその傷口を広げた。掌サイズのそれに力を込めると、面白いくらいに肉は切れる。
痛みはあるけど、静脈も動脈も神経も切ってないから、ちくちく痛むくらい。そんなには痛くない。深く切ると場所を変える。手首に何線も赤い痕が残った。
「鬼柳」
「……」
呼ばれた名前に瞬き、左を見る。床に座る俺に合わせて床に膝を着いているジャックが、俺の腕を掴んだ。
ピンポイントで傷痕を触るから、痛くて眉を潜める。じわりと最初の方に切って、今は血の止まった傷痕から血が溢れた。
傷自体は小さいのに、量が多いから溢れる血は多い。自分の手に付いた血を一瞥して、ジャックは俺を咎めるように見る。
「またやったのか」
「……」
開き直るとジャックはキレるから黙る。
クロウは言う、俺は深い病を背負ってる、って。普段明るく笑えるのにこうしてしまう。躁鬱と言えるそれは俺の病なんだそうだ。
だけれどその躁鬱を患ってしまう繊細な人格、性格であるからこそ今の鬼柳が居るんだ。と遊星は言う。
「クロウや遊星は仕方ないと言うが、俺はそうは思わん」
「……」
ジャックはそう言い、近くにあったタオルで傷痕を拭く。あまり綺麗じゃないそれに納得が行かないらしく、始終タオルの汚れを気にしながら拭いた。
痕の残る俺の右手首を見て、ジャックは眉間を狭める。以前切った痕も残っていて、その赤い痕はまるで打ち身をした後のように全体的に赤い。
「切ってしまう理由が、何かあるんだろう?」
「………いや、別に。切りたいだけだ」
「…切りたいだけ、だと?」
「ああ。刃物が肉を押し上げる感覚とか……そういうの。生きてる実感が、する」
血が止まった手首を見て、瞼を閉じる。じくじくと血流が活発になる感覚がした。手首が痛む。指先が小さく痙攣した。
それをジャックが握る。瞼を開いてジャックを見た。そこには恐ろしいくらいに真っ直ぐな瞳があって、叱るでも咎めるでもなく無言で俺を見る。
「止めろ、とは言わん」
だが。言って、ジャックは止まる。口元を抑えて目線を壁に移した。何か口走りそうになった、という仕種に見える。
首を傾げて見せて、何も言う気のなさそうなジャックを見てから、床に落ちていた先程のアルミ板に手を伸ばした。別に今すぐ切る気はないけれど、手持ち無沙汰だったから。
「鬼柳」
手にあったアルミ板を取られ、空になった掌からゆっくりとジャックの手元に目線を移す。
ジャックの手の中にアルミ板は収まっていた。肩を落として、寒い体を丸める。体育座りをして、「ごめん」と呟いた。
止めてくる事は少し喧しいけれど、きっと俺が皆が見える場所で切るのは迷惑だろう。だから、迷惑掛けてごめん。
「切ってしまうのには何か意味がある筈だ」
「…だから、切りたいから切ってんだって」
「だが普段のお前はあんなに…」
ジャックはアルミ板を一瞥する。べったりと血の付いたそれを床に置いて、俺の手を掴んだ。手首を見られる。居心地が悪くて目線は床に落とした。
「ジャックは明るい俺が好きなのか?」
「……ああ」
「そっか、うん、俺、あれが偽物」
「偽物?」
「今が本物。明るいフリをするのが、嫌いじゃない、だけ」
だからジャックが好きな俺は偽物。偽物の俺を好きになるジャックが好きな俺。難儀。
「だがその偽物のお前を合わせて、鬼柳、だろう」
ジャックは手首の傷を痛まないように優しく触れながら言った。意味のわからない事を言う。首を傾げてジャックを見る。真剣な顔で俺の手首を慈しむように撫でていた。
「……今日のジャック、変だな」
「変だと?」
「…普段なら、一喝して我関せずなのによ。優しくて、なんか……うん、キモチワルイ」
「………そう、だな」
ジャックは手首から手を離す。
居心地悪そうに頷いたジャックは、それから俺の両肩を掴んだ。がくんと体が揺れて、それからジャックの後頭部が眼前にある。
俯いているジャックを見下ろして首を傾げた。ジャック、と名前を呼ぶとゆっくり顔を上げる。
「鬼柳、もう……それ以上自分を傷付けるな。やめろ」
「…ジャック?」
「とてもじゃないが見ていられんのだ…するな」
俺はお前が。まで言って、ジャックの顔は下がる。再び俯いたジャックを見た。
じくじくと痛む手首。眼前まで持ち上げて、触れる。皮膚に凹凸が出来ていた。汚い肌。確かに見ていられないだろう。
切りたくて切るけれど、ジャックがこんなに思い詰めるだなんて思いもしなかった。だからと言って、止めるつもりもないけれど。ごめんねジャック。
***
ジャック×京介でシリアス、という事でこんな感じですっ…!
鬼柳さん病んでますね、すいませんorz
躁鬱の激しい鬼柳さんですが、これだとなんだかダグナー京介+長髪京介みたいな性格ですね。そういう事かな…?うん、よくわからん!←
では、リクエストありがとうございました!ジャックは書いていて楽しかったです!
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